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寂しすぎる…横浜文化体育館の解体工事の様子を元プロレス記者が追跡! 思い出した鼻をツンとつく匂いと和室のプレスルーム 

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高木圭介

高木圭介Keisuke Takagi

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photograph byKeisuke Takagi

posted2021/05/27 06:00

寂しすぎる…横浜文化体育館の解体工事の様子を元プロレス記者が追跡! 思い出した鼻をツンとつく匂いと和室のプレスルーム<Number Web> photograph by Keisuke Takagi

着々と解体工事が進む横浜文化体育館。寂しさとともに、当時の思い出が蘇ってきた(写真は5月25日現在)

 板挟みに困りつつ場内をウロウロしていると、リングスの黒田耕司社長(2012年に死去)の姿を発見。温厚な黒田社長は格闘技畑の人ではなく、もともとは東宝演劇部のプロデューサーで、「東宝歌舞伎」「コマ歌舞伎」の製作などを担当。

 その後は、「美空ひばり帝劇特別公演」など、歌謡界の女王・美空ひばりの舞台作品のプロデュースを24年間に渡り担当されてきた凄い方なのだ。美空ひばりの死去(平成元年)後、リングスの社長に就任していたのは、おそらくリングス中継を放送していたWOWOWとの関係からだったのだろう。

 事情を話しつつ「なんとかしてくださいな」と頼み込むと、黒田社長はニコニコ笑い、「どれどれ」と舞台脇の狭い階段を上りつつ、文句が飛び交うプレスルームへと顔を出してくれた。

 畳敷きの狭い部屋へと入ってきた黒田社長は「あれ、懐かしいなぁ。ここ昔、お嬢(※関係者は美空ひばりをこう呼ぶ)の楽屋だったんですよ」とポツリ。

 その一言により、ブーブーと文句が飛び交っていた和室内は静まり返る。ある記者は畳に置かれたちゃぶ台を撫で、またあるカメラマンは設置された鏡を凝視し「これを、あの美空ひばりが……」なんてつぶやいている。そのまま皆が妙に納得してしまい、場が収まってしまったのだった。

 黒田社長の一言にて騒動は一件落着。たしかに階段を上った和室のプレスルーム(?)は不便ではあったが、あの「ひばり部屋」で仕事をしたのは、後にも先にも結局、あの夜のリングス大会の時だけとなった。

 解体工事が進み、外側から内部までが見えるようになった文体をしばらく眺めていると、「ああ、あの辺にいつもリングが……」「ついに、ひばり部屋も消えたか……」なんて、いよいよ文体の消失を実感し始めた。

【写真】寂しすぎる…横浜文化体育館の解体工事の様子を筆者が追跡!

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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