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「有り難うございます。1本出ました」超人・糸井嘉男は律儀な男…今年で40歳、“近大の後輩”佐藤輝明から受けた刺激とは?
posted2021/05/11 11:02
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
5月8日の朝、筆者のもとに一通のメールが届いた。
「いつも、有り難うございます。1本出ました。また明日から控えの可能性がありますが頑張りますね。引き続き宜しくお願い致します」
前日の7日のナイターゲーム、今季初のスタメン出場を飾った阪神タイガース・糸井嘉男は、この試合で今季第1号ホームランを放った。
彼の取材を深く続けること約10年。球界では“超人”と呼ばれる彼だが、このメールにも表れるように素顔はいつも律儀で丁寧な男である。
プロ野球人生で最も多い練習量
「気持ちで運んだホームラン」と語る1本は、開幕から1カ月半が経過してのことだった。これで14年連続本塁打を達成――しかし、この1本はずっと控えメンバーとして過ごしてきた後で生まれたもの。今までとは違う感覚、心境の中で生まれたホームランだった。
「感覚だけは鈍らせてはいけない。肉体的な感覚はもちろん、目の感覚、ゲーム感覚を鈍らせないようなトレーニングが必要」
チームの全体練習が休みとなる移動日の月曜日でも、甲子園の練習場には必ず彼の姿がある。出場機会が少ない分、人一倍、ボールを多く追って目を馴染ませる。物凄い集中力で練習に取り組んでいた。投手としてスタートしたプロ野球人生は今年で18年目。プロ入り後で最も多くの練習量をこなしているという。
「不安だった膝の状態が今年は非常に良い。痛みが消えてくれた。今季は膝に不安を抱えずシーズンを迎えることができる」
糸井は去年、膝の痛みに悩まされてきた。だからこそリハビリ、治療に多くの時間を割かず、練習と試合に専念できるシーズンは彼にとっては久しぶりだった。キャンプから身体のキレはよく、守備、走塁にも不安はない。打撃でもオープン戦で.381の成績を残し、「今年はやれる、今年はできる」という自信を持って臨めていた。
身体は動くのに出番がない日々。しかし、この葛藤との闘いの中でも糸井は腐らなかった。最高の準備を整えるために自らの身体と向き合い、時間の使い方を工夫し、日に日に練習量は増えていった。スーパープレーでファンを魅了してきたが、今は“準備の超人”になった。