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【センバツ秘話】阪神入りした堀越のエースが語る“松井秀喜の本塁打”「変な音がしました。鈍い音であれだけ飛ばされると…」
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph bySankei Shimbun
posted2021/03/31 17:03
第64回選抜高校野球、堀越との試合でホームランを打った松井秀喜
堀越エース「鈍い音であれだけ飛ばされると」
東京、青山一丁目駅のそばのビル、フロアに現れた男が「元阪神タイガース」とは想像しがたい。ほどよい長髪。穏やかなスマイルと歯切れのよい滑舌。紺白ストライプのシャツに同系色のネクタイがきれいに収まる。
「よく私がここにいるとわかりましたね」
ユナイテッドアローズ販売部スーパーバイザー、山本幸正は言った。
松井秀喜の星稜は宮古高校を破り、次戦で東京の堀越学園とぶつかる。そのマウンドを守るのは、冷静かつ粘着力をたたえるプロも注目の右腕だった。
山本投手の頭に「松井対策」の図線はくっきりと描かれていた。
イン、イン、アウト、イン、アウト。
「決め球の外の真っ直ぐをどれだけ遠く感じさせられるか。まずインコースのストレートで威嚇、インコースのカーブでカウントをとって、外のストレート。4球目はインコースのカーブと決めていました」
最初の打席は見逃し三振。次が一ゴロ。続いて左飛。上々だった。
0対2の8回表2死二塁。山本は、またも松井を2ストライクまでは追い込んでいた。
「イン、イン、アウトで組み立てて2-2、そこからインコースのカーブをコンと打たれました」
右翼席への2ラン。落差のついた得意の球を運ばれた。
「変な音がしました。竹でボールを打って折れたというような。鈍い音であれだけ飛ばされるとダメージは残る」
配球は間違っていない。捕手のミットからブレてはいないので「失投ではありません」。ただ故障で球威が落ちていた。0対4で敗れて帰京後、ひじの軟骨を除去した。ずっと痛かったのだ。だから思う。もういっぺん対決できるのなら「私の配球を他の投手に指示したい」。ひとひねりした言い回しに自負はのぞいた。