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17年前にイチローが明かしたオリックス時代の「後悔」とは?「“緊張感”を持ってずっとプレーをしていたい」の真意
posted2021/03/29 11:04
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
Getty Images
チーム再建中のマリナーズに朗報が届いた。
若手有望株やドラフト注目選手をランク付けするMLB公式サイト『MLBパイプライン』で、マリナーズが「マイナー組織の充実度ベスト10」の3位にランクイン。朝のオンライン会見では、スコット・サービス監督が若手の成長過程には欠かせない心的要素を“edge(意欲)”と“butterflies(緊張感)”に集約。球団の会長付特別補佐でコーチをアシストしているイチロー氏との話を交え、一気に説き述べた。
「この間、イチローがとてもいいことを言っていた。もし、自分が選手としてプレーできるなら、現役時代と変わらないbutterfliesを持ってずっとプレーをしていたいってね。思うに、偉大な選手はみんな(バランスの取れた)意欲と緊張感を持って試合に臨んできた。彼らの内心はちょっと落ち着かないっていうのかなぁ。だからそれは悪いことじゃない」
10年連続で200安打を放ち、メジャー通算安打3089本を記録した異能の打者は、「どんな試合も緊張しますよ」と言い続けた。
ただ、その2つのキーワードから派生する「野球への情熱」や「飽くなき向上心」といった類いの言葉とイチロー氏が言う「緊張感」はうまくつながらない気がする。そんな違和感が脳裏をかすめると、その引っかかりを解く手掛かりが浮かんできた。
手袋を枕に敷いて置いたバット
2004年、ピオリアのキャンプ地でのこと。フィールドに集まり出した選手がそれぞれ手にした道具を芝の上に置いていく。練習開始前のごくありふれた光景だが、注視すべき一コマがあった。
イチローは、打撃用の手袋を芝に置きその上にバットの握り部分をそっと乗せた。
次の日もまた次の日も、漆黒のバットは優しい手袋の枕を敷いてアリゾナの朝日を浴びていた。
オープン戦が始まって間もない3月初め、イチローに聞いた。
「木のバットは呼吸をしているんです。湿気には当然弱いですし、それによってバットのバランスが変わったり重さが変わったりしますから。それと(オリックス時代の)1995年か96年に、試合で一度バットを投げちゃってるんです。あとですごく後悔して。それから特に道具に対する気持ちが強くなってますね」
夜露が乾ききらない芝に置くバットにはイチローの気構えが示されていた。周到すぎるほどの周到さ、細心すぎるほどの細心さで日々臨んでいることを知ったあの日、イチローは話の最後をこう結んでいる。
「野球をいつかは辞めなくてはいけない時がきます。その時に、そこに至ったまでに、自分の考えられるすべてをやったんだというふうに思いたいんです」
あるべき気組みが投影されたこの言葉が、色あせるはずはない。