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「もう辞めろ」箱根駅伝の“罵声”が鈴木健吾に火をつけた “世界59人目”のマラソン日本新記録が誕生するまで 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byKyodo News

posted2021/03/02 17:02

「もう辞めろ」箱根駅伝の“罵声”が鈴木健吾に火をつけた “世界59人目”のマラソン日本新記録が誕生するまで<Number Web> photograph by Kyodo News

第76回『びわ湖毎日マラソン』で2時間4分56秒の日本記録を叩き出した鈴木健吾

大後栄治監督のもと取り組んだ食事改善

 下級生の頃は体の線も細かった。下痢の症状にも悩まされ、うまく吸収されない悩みを抱えていた。それを今も恩師と慕う大後栄治監督のもと、こつこつと食事改善に取り組んだ。走りも基本動作から見直し、ジョグの前に四股踏みをしてから入念に間接周りを解きほぐしていくのがルーティンだった。

 継続した努力は、自身を裏切らない。個々の成長スピードに合わせて、練習メニューをオーダーメイドで作りあげる大後流の指導も鈴木に合っていたのだろう。自主性が重んじられる練習環境下で、鈴木は嬉々として長い距離を走り込んだ。2年生時の夏合宿ではおよそ1カ月で1000km弱を走り込んだが、3年生になると1200kmにまでその量が増えていた。

 当時、合宿先の白樺湖で話を聞いた際、こういって目を輝かせていたのを思い出す。

監督に練習を『やりすぎるな』といわれることも

「走ることは苦にならないですね。ジョグは基本1人なんですけど、長くずっと走っていられます。たまに監督に『やりすぎるな』っていわれることも(笑)。やっぱりポイント練習の次の日とかってけっこう体はきついんですけど、そういう日こそしっかり長い距離を走ろうと思うんです。90分くらいゆっくり走って、少しずつプラスαの力を身につけていく。そういう練習が自分にとっては大事かなって」

 走ることを楽しめるのは、それだけでもう立派な才能のひとつだろう。鈴木の走りの特徴に姿勢の良さが挙げられるが、それも基本動作を繰り返し、繰り返し身につけてきた成果に他ならない。今回のレースでも、最終盤まできれいなフォームは維持されたままだった。

【次ページ】 勝つためのプランがなかったMGCの反省

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