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親友に勝って金 小平奈緒が“韓国の女帝”李相花にかけた言葉「チャレッソ」の意味
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2021/02/18 11:00
レース後には、ふたりで一緒にリンクを回って観客に感謝を伝えていた小平と李。
小平「(李は)年下だけど尊敬する選手」
31歳の小平と28歳の李の出会いは、今から12年以上前だ。
世界の舞台で先に頭角を現わしたのは小平より3歳下の李。早熟の李は15歳だった2004-2005シーズンからW杯に出場し、'06年トリノ五輪には16歳の若さで出場した。
2006-2007シーズンからW杯に参戦した小平は李について「年下だけど尊敬する選手」と語るなど、すぐに仲良くなった。
それから10年あまりの月日がたった。
2人はそれぞれの道で鍛えながら世界の頂点を競う実力を備えていき、平昌五輪の舞台でしのぎを削り合った。その結果が、小平が金、李が銀というものだった。
リンク上での涙の抱擁から数十分が過ぎ、2人はメダリスト会見で壇上に並んでいた。会見ではリンクで見せた友情について相ついで質問が出た。2人は微笑みながら互いのエピソードを語り始めた。
自分が負けた相手に誠意を尽くした李
しばし考えていた小平がピックアップした思い出は、'14年11月、韓国ソウルで行なわれたW杯での出来事だ。
W杯参戦9年目にして女子500mで初優勝を飾った小平は、大会最終日の終了後すぐに、当時拠点としていたオランダに帰らなければならなかった。
リンクから空港まで向かうタクシーを手配してくれたのは李相花だった。
「しかも、呼んでくれただけでなく、空港までのタクシー代も出してくれたんです」
小平はそう明かした。
オランダ留学1年目の小平は、所属する相澤病院からのサポートは受けていたものの、オランダのプロチームに加わるためには相応の費用がかかっており、貯金を取り崩しながらの武者修行だった。
それを知ってか知らずか、李は心遣いを見せた。
それも、自身のホームである韓国での大会で敗れた相手に対して。
韓国チームのスタッフは自国が誇る「女帝」の敗北にぴりぴりムードを漂わせていたが、そんな状況でも李の友情は変わらなかった。