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変幻自在な井上尚弥がレベルの差を見せたが…比嘉大吾が「もっと大きいと思った」と収穫を語るワケ
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKyodo News
posted2021/02/12 17:05
「LEGEND」で比嘉大吾(右)と拳を交えた井上尚弥。2人は試合後、この先の決意を語った
「正直、このスパーリングに関して僕にメリットはない」
メディアのインタビューに応じた井上は「お客さんにも喜んでもらえたと思う。今日はいい出来だったと思う」と自らのパフォーマンスを評し、井上を目指している比嘉をチャンピオンとして迎える意義を問われると次のように答えた。
「正直、このスパーリングに関して僕にメリットはないんですよ。比嘉選手に対しては見ている方も(井上相手に)どれだけやれるかという見方をすると思う。その中で僕はレベルの差を見せなきゃいけないですし、互角のスパーをしたら自分の評価は保てない。そういう意味では今日のスパーはプレッシャーがありました。違いは見せられたと思います」
言葉通りレベルの差を見せつけた井上はかつて比嘉とスパーリングをしたときと比較してこうも語った。
「あのころと(2人の)距離は縮まってないのかなと。お互いに成長しているんで、その差は埋まっていたらダメだと思うし、そこは引き離さないといけないと思っている」
比嘉大吾が少しかわいそうだったのは
真の王者としてまったくスキがなく、チャンピオンのイメージをしっかり守っている井上に対し、比嘉はスパーを終えたシャワールームで「焼き肉に連れてってください」とおねだりしたという。いつもどこかとぼけていて、井上とは対照的なキャラクターであるのは面白い。そんな比嘉がぐうの音も出ないくらい井上にやられてしまったわけだが、今回は少しかわいそうなところもあった。
比嘉は直近の試合が昨年の大みそかで、現在は休養があけて軽めのトレーニングをスタートさせたばかりだった。10日ほど前にオファーをもらい、そこから急ピッチで調整したものの、「尚弥さんが相手というのもあったけど1ラウンドで疲れました。いつもより呼吸とかがきつかったですね」と言うから、やはり時間的に厳しいものがあったのだろう。
井上の力を素直に認めるコメントを連発しながら、収穫点を問われた比嘉が次のように語っていたことにも注目したい。
「尚弥さんはたぶん手の内をそこまで今回は見せてないと思うんで、何とも言えないですけど……。同じ距離感でパンチの強さとか質とか、一瞬の速さとかは見えました。あと身長ちっちゃいなと思いました。もっと大きいと思ったんですけど……。今、バンタム級で自分も世界ランクに入ってるし、(いつか)やらないといけない。そうなったらお互いもっと最高な状態で体重も落として、そこからの勝負になる。いい試合になると思います。スパーよりも試合のほうが」