スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ラソーダと稀有なパーソナリティ。名将が語っていた“監督論”「鳩を手で包んでやるような仕事だ」
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by西山和明
posted2021/01/16 06:00
野茂英雄に耳打ちするトミー・ラソーダ
地獄から悪魔を追い払う男
ラソーダは、1981年と88年にワールドシリーズを制した。88年のシリーズは、カーク・ギブソンの神話的な代打逆転サヨナラ本塁打とともに覚えている人が多いのではないか。
この年のドジャースは、「最弱のナ・リーグ王者」と呼ばれていた。86年、87年と連続して負け越していた(ともに73勝89敗)だけではない。88年のレギュラーシーズンを振り返っても、3割打者は1人もいなかったし、本塁打20本以上の打者は、ギブソンとマイク・マーシャルの2人だけ。投手陣の大黒柱オレル・ハーシュハイザー(この年23勝。59イニングス連続無失点の大記録を達成)がいなかったら、とてもシリーズに進出できる陣容ではないはずだった。
だがラソーダは、この陣容を地道に充実させていた。遊撃手のアルフレード・グリフィン、なんでも屋のミッキー・ハッチャー、リリーフ投手のジェイ・ハウエル、控え捕手のリック・デンプシー……皮肉交じりに「スタントマン」などと呼ばれながらも、彼らはこぞってあっぱれな活躍を見せた。
そんな彼らを発掘し、再生させたのは、ラソーダの手腕にほかならなかった。彼は、地味な選手たちを励まし、鼓舞し、勇気を与えつづけた。「ネガティヴな言葉はひとことも聞かれなかった」とデンプシーはのちに述べている。「その反対だ。地獄から悪魔を追い払ってしまうような男だった」
そんなラソーダだったからこそ、80年代最強とまで呼ばれた大本命のアスレティックスを、ワールドシリーズで倒すことができたのだろう。しかも結果は4勝1敗。第1戦の9回裏2死、脚の故障で歩くことすらおぼつかなかったギブソンを代打に起用し、一気に強運を引き寄せたあの勝負勘は、どこで身につけたものだったのか。
才能を見抜く洞察力と、心意気を受け入れるハート
ラソーダにはもうひとつ、忘れがたい功績がある。彼がドジャースの監督に就任したのは76年のことだが、79年から96年にかけての18年間で、ラソーダは9人もの新人王を送り出しているのだ。