完璧なテクニックと豊富なアイディア。彼が細かいタッチでドリブルを始めると、イングランドの守備陣は挟み撃ちにするかファウルをするしか止める術がなかった。

　一方、イングランド選手は屈強で闘志に溢れていた。アルゼンチン選手と技術では差があったが、前半は豊富な運動量と激しいマークでゴールを死守した。

ラフなタックルを浴びる場面も©GettyImages

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後半6分に“事件”は起こった

　最初の“事件”は、後半6分に起きた。

　マラドーナが敵陣に入った辺りでパスを受け、ドリブルで3人をかわすと、ゴール前のFWホルヘ・バルダーノへ低いパス。バルダーノがこれを跳ね上げて背後のMFスティーブ・ホッジをかわそうとしたが、ホッジは空中のボールを咄嗟に蹴り上げる。これが自軍のゴール方向へ飛び、GKピーター・シルトンが出てきてジャンプする。

「シルトンがボールをキャッチするか、パンチングで大きく跳ね返すだろう」と思ったら、不思議なことが起きた。シルトンと競り合う格好でマラドーナが飛び上がって頭を振ると、次の瞬間、ボールはイングランド・ゴールへ吸い込まれていた。

伝説の神の手ゴール©Getty Images

一観客として、何が起きたかわからなかった

「一体、何が起きたんだ」

　僕は、このプレーが発生した地点から30mほどの席に座っていた。しかし、マラドーナとシルトンの体が重なり合ったため、何が起きたのかわからなかった。

　マラドーナは両手を突き上げ、右のコーナーフラッグの方向へ駆け出して“ゴール”を祝った。

　イングランド選手が鬼の形相で主審を取り囲み、「ハンドだ」と強くアピールする。周囲のイングランド・サポーターも皆、手を振り上げて主審と副審に抗議している。

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