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井上尚弥「ゾクゾクするような試合を、自分もすごく求めているんです」強すぎるがゆえの苦悩と理想
posted2020/11/01 17:10
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by
Getty Images
<名言1>
「どちらが勝つか分からない、ファンの人がゾクゾクするような試合を、自分もすごく求めているんです」
(井上尚弥/944号 2018年1月18日発売)
◇解説◇
全階級を通じたパウンド・フォー・パウンドで1位だったローマン・ゴンサレスとの対戦が現実味を帯びてきた2017年3月、まさかの「ゴンサレス敗戦」によってそれは立ち消えになった。
次なる目標に統一戦を掲げ、他団体の王者であるジェルヴィン・アンカハスと交渉に臨んだが、アンカハス陣営は対戦を拒否。その理由は井上が強すぎるがゆえ、つまり負けることを恐れたのだ。
苦肉の策で選んだ同年12月30日のヨアン・ボワイヨとの防衛戦は、井上が3回TKO勝ち。試合後のインタビューでは「全然ものたりません」と言い放った。
「12ラウンドまで相手が二重に見えていた」
時は流れ、各団体の世界王者らが集うWBSS。無類の強さで勝ち上がった井上の前に立ちはだかったのは百戦錬磨のベテラン、ノニト・ドネアだった。対戦前の話題はもっぱら「井上が何ラウンドでKOするか」だったが、2Rで警戒していたドネアの左フックが井上を襲った。右まぶたをカットし、出血。「そこから12ラウンドまで相手が二重に見えていた」と戦いは12Rまでもつれる死闘となった。
それでもモンスターは、11RでKO寸前となるダウンを奪うなど見せ場を作り、大橋秀行会長も「アクシデントを乗り越えて、いろんな技術を見せ、気迫も見せた。初めて見た人も『これがボクシングか』と喜んでくれたんじゃないか」と、大きく成長できた12Rを称えた。
試合終了後、セコンドに「楽しかったあ」と本音を見せたという井上。まさに自らが求めていた「ボクシング」だった。