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井上尚弥「ゾクゾクするような試合を、自分もすごく求めているんです」強すぎるがゆえの苦悩と理想
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byGetty Images
posted2020/11/01 17:10
初めてのラスベガスでの試合で、マロニーを7RKOで破った井上
高校を卒業したばかりの青年が身の程をわきまえない発言を
<名言2>
「12回戦でなく3回戦なら今すぐにでも井岡さんに勝つ自信がある」
(井上尚弥/808号 2012年7月19日発売)
◇解説◇
これは2012年の発言である。まだ高校を卒業したばかりの青年が、当時の世界王者の名前を挙げてこう言い切るのだ。普通に考えれば身の程をわきまえない表現だが、その言葉の主は誰あろう、井上尚弥である。
アマ時代から「怪物」と騒がれていた井上の実力が知れ渡ったのは、同じ大橋ジム所属である八重樫東とのスパーリングでのことだった。井岡一翔との統一戦に臨むにあたって八重樫の相手を井上が務めた。
その戦いぶりについて大橋秀行会長は「5R中、3Rは(八重樫が井上に)取られた」と語ったほどだった。
「日本ランク1位ですから、いけるだろうと思っていた」
アマ時代の井上の逸話は枚挙にいとまがない。
同じ頃、井上とのスパーリングで「ボコボコにされた」と語るのは田口良一だ。井上と初めて対峙したのは日本チャンピオンの座を逃したあとのスパーリング。
「井岡(一翔)くんや八重樫(東)さんともスパーリングしていましたし、それに当時の自分は日本ランク1位ですから、いけるだろうと思っていたんですけど……」
しかし、怪物は強かった。周囲が見守る中、2度もダウンを喫し、予定よりも早い3Rでスパーリングは中断。日本チャンピオンを逃した以上にプライドを傷つけられた。
だが、その屈辱は田口の原動力にもなった。日本王者となった田口は最初の防衛戦の相手に井上を指名。試合こそ敗れたものの、その戦いぶりは多くのボクシングファンの心に刻まれ、夢であった世界王者に上り詰めるきっかけとなる一戦となった。