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ドラフト当日のウラ側 「まさかの1位指名!」そのとき所属企業の広報室は…【ソフトバンク佐藤直樹の場合】
text by
鼠入昌史Masashi Soiri
photograph byKYODO
posted2020/10/26 06:00
ソフトバンクから1位指名を受け、ポーズをとる佐藤直樹(昨年のドラフトで)
広島駅の係員として働くドラ1選手
「そこでこれは我々から提案したのですが、佐藤選手が勤務している様子を取材していただこうと。当時、佐藤選手は広島駅の係員として働いていましたから、それを地元や福岡のテレビ・新聞などに取材してもらうことができました」
スター候補の取材となれば意気込み、抱負、アピールポイントなどを聞きたくもなるが、社会人野球の選手は仕事と野球のいわば“二刀流”。仕事の様子を広く知ってもらうことは、JR西日本にとってのPRになるだけでなく、ともに働く社員たちにとってもモチベーション向上につながるという。
「仕事ぶりを見てもらうことで、選手の人柄を知って貰う機会になると同時に、当社が安全やサービスにどう取り組んでいるかを改めて知ってもらういい機会にもなります。駅員はお客さまにとっても身近な存在ですからね。おかげさまで、『ドラフト1位だって、すごいね』などと声をかけていただく機会も増えました。もちろん佐藤選手が指名されて広島駅や支社の社員みんなが盛り上がりましたし、誇らしかったですし、それを地域の皆様と共有できたことも嬉しかったですね。普段とは違うメディア対応が続きましたが、それも楽しくできました」
ドラフト指名で「社員も誇らしくなる」
JR西日本は京阪神を中心とする関西地方から北陸、山陽、山陰と広いエリアに路線網を広げる。その中で、野球部があるのは広島支社だけだ。野球部員と日常的に仕事をともにする広島支社の社員はともかく、他の支社の社員にとっては自社に野球部があることを意識することは多くないという。それが、ドラフト指名をきっかけに改めて野球部の存在を認識し、職場や地域が喜んでいる様子を伝え聞いて少し誇らしくなる――。社会人野球の役割のひとつが垣間見える。
今回の取材の仲立ちをしてくれた東京広報室の担当者も言う。
「都市対抗野球に出場すると社員がたくさん東京ドームに来て一緒に応援するんです。普段の仕事では関わるようなこともない人たちが、一緒に野球部を応援する。それで会社への気持ちも新たになりますし、同じ仲間だということを再認識できる。チームワークが高まる、といいますか。それが日々の安全運行にもつながっていると思っています」
社会人野球は企業の社会貢献と広告宣伝効果を狙ってのもの、という印象があることも事実。だが、社員同士や地域社会との一体感を醸成し、それが目に見えない大きな効果をもたらしているのだろう。ドラフト会議でとある企業のひとりの選手が指名を受ける。そのウラでは多くの仲間の社員たちの喜びも広がっているのだ。