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【引退】23歳五十嵐亮太vs巨人最終打席の松井秀喜「全球ストレート」で50号はあまりに強烈だった
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKyodo News
posted2020/10/25 11:00
引退する五十嵐亮太はその豪快なストレートで数々の名勝負を生み出した
“あれでよかったのかもな”と思える
結果的に、この一発が松井の日本における最後のホームランとなった。この対決によって、全球ストレートを投げ続けた五十嵐の評価はますます高まることにもなった。期せずして、名勝負のもう一人の立役者となった米野さんにも心境の変化が訪れたという。
「しばらくの間、“亮太さんに申し訳ないことをした……”という思いでいました。でも、あれから18年の月日が流れた今、“あれでよかったのかもな”という思いに変わってきました。松井さんの節目の一発になったこともそうです。そして、あの日の亮太さんのピッチングは気迫にあふれ、それがボールに乗り移っていました。典型的なパワーピッチャーとして本当にいいボールを投げていました。その二人の最高の名勝負が生まれたきっかけとなったのだから(笑)」
そして、最後のマウンドへ
五十嵐亮太が、今シーズン限りでの現役引退を決めた。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団以来、実に23年間に及ぶ現役生活だった。グラブを持った左腕を天高く突き上げ、ダイナミックな投球フォームから、豪快なストレートを投げ続けた。
「あの投げ方では、すぐに故障するのではないか?」という否定的な声もあった。「若いうちはいいけど、いつまでも力任せのピッチングは続けられない」と指摘する声もあった。それでも五十嵐は、不惑を超えるこの年まで現役投手として第一線で活躍を続けた。豪腕から繰り出されるスピードボールで相手打者を翻弄する投球スタイルを変えることはなかったが、キャリアを重ねるうちにナックルカーブをマスターし、五十嵐は見事にモデルチェンジに成功した。米野さんが振り返る。
「いい意味で荒れていて勢いのあった20代の頃の亮太さんと、僕はバッテリーを組ませてもらいました。それはすごく速いボールでした。集中力と気迫にあふれるすごいピッチャーでした。たとえ打たれても、決してキャッチャーのせいにしない人でした。亮太さんとバッテリーを組めてよかったです。長い間、本当にお疲れさまでした」
うなるようなストレートで打者を翻弄し続けた。2020年10月25日、五十嵐亮太が現役最後の神宮球場のマウンドに立つ――。