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武豊「申し訳ないけど、皆様お静かにと」 15年前、異様な熱気に満ちていたディープの菊花賞
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKyodo News
posted2020/10/20 11:00
菊花賞でディープインパクトの単勝支持率は79.03%。単勝式オッズは1.0倍(100円元返し)という圧倒的支持を受けた
周囲がディープに近付かないようにしていた
結局、無敗の3冠が懸かる2冠馬がパドックに現れたのは10番のレットバトラーが入った直後。ここで今度は安堵ともとれるファンの声がパドックを包んだ。
その18分後に武豊騎手がパドック入り。更に2分後の3時20分に停止命令がかかると、天才騎手がすでに史上最強馬との呼び声も高かった相棒に騎乗。各馬が馬場入りするため地下馬道に消えたが、ディープインパクトは鞍上から「後入れ」と確認の声。地下馬道へ続く入り口を一度スルーして、後ろの馬を先に行かせると、残されたディープインパクトは多少興奮した素振りを見せた。鞍上がなだめつつ、改めて馬場へ向かう。そんな一挙手一投足に、どよめきともざわめきともとれる声が起こるパドックであった。
そんな一種独特な雰囲気は、当然その後も続いた。出走各馬の最後にディープインパクトが馬場に入れられると、スタンドからは偉業を待ち切れないと言わんばかりの歓声が上がり、早くも手拍子が起きた。そんな中、ディープインパクトはゆっくりと返し馬を行い、ゲート裏へ行った後は他馬と離れ、1頭だけで歩かされた。後に武豊騎手にその行動の真意を問うと、彼は次のように語った。
「自分が、というより周囲の皆が気を使ってか、ディープに近付かないようにしていた感じでした」
異様な雰囲気を作っていたのがファンだけではない事が分かるコメントだ。
スタンドから上がった悲鳴ともとれる声
スタート地点へもディープインパクトはただ1頭で向かった。その様がターフビジョンに映し出されると拍手が起き、その拍手がやがて手拍子に変わる。その後、ファンファーレが鳴ると、再び今度は一段と大きな手拍子が鳴り響いた。
ゲートが開いた瞬間、歓声が上がるのはいつもの事だが、次の刹那、スタンドからは驚きとも悲鳴ともとれる声が続いて上がった。後ろからの競馬を身上としていたディープインパクトがいつになく好スタートを決めると、普段より前の位置につけた。今回は3000メートルの長丁場。いつも以上にゆったりと折り合う事が求められるこの舞台で掛かり気味に進出したため、淀のスタンドがざわついたのだ。