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全米プロ王者はコリン・モリカワ。
飛距離は100位以下、武器は頭脳。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2020/08/11 11:30
コリン・モリカワは名前からわかる通り日系アメリカ人で、細身な見た目の通りの技巧系である。
2度目のメジャー挑戦で初勝利。
そんなモリカワは、間違いなく米ゴルフ界のエリートだ。
「ジュニア時代、アマチュア時代、そしてプロ転向後も、ずっと快適にゴルフをやってきたけど、大学4年間を過ごした第2の故郷のサンフランシスコで、幼いころからの夢だったメジャー優勝をついに挙げられたことが格別に嬉しい」
なるほど、本人にとっては「ついに」と言いたくなるほど長い道程だったのだろう。だが、客観的に見れば、まだ23歳、わずか2度目のメジャー大会挑戦で勝利した彼の歩みは、「ついに」どころか「もう?」と言いたくなるほどの猛スピードである。
巷では「エリートは打たれ弱い」と言われ、それはゴルフ界でもしばしば当てはまる。順風満帆なエリート人生を送ってきたゴルファーは、ひとたび躓くと、立ち直り方を知らぬがゆえに、立ち直れず崩れていく。そういう例は過去には多々あった。
しかし、モリカワはエリートながら躓いても見事に立ち直る。それが彼の強さであることは、実を言えば、この全米プロを制覇する以前から、幾度となく目にしていた。
リフレッシュのきっかけは彼女と犬。
今年6月、コロナ禍の真っ只中で米ツアーが再開されたとき、再開初戦のチャールズ・シュワッブ・チャレンジでモリカワは優勝争いを演じたが、サドンデス・プレーオフでダニエル・バーガーに敗れ、悔し涙を飲んだ。
その翌々週。トラベラーズ選手権ではプロ入り以来、初の予選落ちを喫し、彼が更新していた22試合連続予選通過記録は、そこで止まってしまった。
とんとん拍子で前進してきたモリカワにとては、続けざまの傷心の出来事だった。ゴルフ界のヤング・エリートは、往々にして、そうした心の傷から不調へ陥っていく。だが、モリカワは違った。
「速攻で自宅へ戻り、週末は彼女と犬と戯れて気持ちをリフレッシュした。そうしたら、スイングのローテーションの仕方で1つ大きな発見をした」
気持ちを切り替えたら、技術上の課題の突破口が見えてきて、「目からウロコだ」と喜んだモリカワは、その翌々週、ワークデー・チャリティ・オープンで再び優勝争いに絡み、強豪ジャスティン・トーマスをサドンデス・プレーオフで見事に撃破して通算2勝目を挙げた。
大先輩のメジャー・チャンピオンであるトーマスを相手に、怯むことなくプレーしていたモリカワの不思議なオーラは、トーマスにプレッシャーをかけ、そしてトーマスは崩れていった。