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前例なき五輪延期に立ち向かう、
新たな出発本部と大会開催統括。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byTokyo 2020

posted2020/07/13 07:30

前例なき五輪延期に立ち向かう、新たな出発本部と大会開催統括。<Number Web> photograph by Tokyo 2020

中村英正さん

【新たな出発本部】
五輪史上例のない大会延期が決まったのが3月24日。新たに生じた膨大な調整を行うタスクフォースが設置されたのは、その2日後のことだった。組織委員会の大会開催統括を務める中村氏に聞いた。

 史上初の五輪延期を受け、東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会は“新たな出発本部”を立ち上げた。森喜朗会長や武藤敏郎事務総長、輸送・警備・大会運営など各局の局長らによる幹部会だ。その横串を刺すのがゲームズデリバリーオフィサー(GDO)の中村英正である。

「史上初の延期でIOCにもマニュアルがない状態。これまで経験豊富な先導者だった彼らが、急に伴走者になった。前例がない中進むのはかなり苦しいですが、立ち止まるわけにはいかない。何を考えるべきかを各局から持ち寄るところから始めました」

 中村は財務省から組織委員会に出向している公務員で、2014年から企画財務局長として予算策定や新エンブレム選考に携わってきた。責任がさらに増大したのが2018年。ハンマー投げの金メダリスト・室伏広治からスポーツ局長の座を受け継ぎ、同時に新設のGDOに指名された。実質的に大会を統括する役割だ。

「次に何をすべきかをまとめる整理役のような立場。組織委と同じく、裏方です」

 なぜ財務畑の中村がGDOに抜擢されたのか? 理由の1つに国際経験豊富な交渉術があるだろう。中村は祖父が大蔵省出身、父が外務省出身という官僚一家に生まれ、大蔵省入省後にハーバード大学留学やフランスのOECD勤務を経験した。IOCの幹部と対峙しても物怖じしない。

「海外の方と調整をしなきゃいけない場面が多いんですが、外国の人相手だからといって妙に肩に力を入れる必要もない。逆に甘くする必要もない。結局は人と人との交渉。相手に間違った印象を与えないように、イエス・ノーの結論を先に伝え、理由を短く伝えるようにしています」

大事なのはいかにいい大会にするか。

 交渉の哲学は、衝突を恐れないことだ。

「双方で主張が異なるのは当然。それを率直にぶつけるところから始めるのを心がけている。スポーツと同じで、真剣に向き合ってこそいいものが出てくる。なあなあで嫌な思いをさせたくないとなったら、いいものは出ない。海外にだけでなく、国内でも組織内でもそうなので、評判が悪いんですけど」

 勝ち負けはないというのも哲学の1つだ。

「IOCの方と口喧嘩もするんですが、勝った負けたではないんですよ。いろんな決定でこちらが差し込んだところもあれば、差し込まれたところもある。でも組織委員会の主張が通ったときに、僕たちが偉かったということではない。半分はIOCが譲ってくれたわけですから。逆にIOCが無茶を言って部分的に通されたとしても、最終的にOKを出したのは組織委員会。結論に対しては同じ責任を持つべきだと思っています。大事なのはどちらの言い分を聞くかではなく、いかにいい大会にするかです」

 新たな出発本部は議論を重ね、やるべきことを3つに整理した。「コピー&ペースト」、「削減」、「新たに加える」の3つだ。

「数年間の準備を生かすためにも、同一会場・同一日程を前提に調整を進めることになった。各会場と話し合いを進めています。これがコピー&ペースト。ただ、新型コロナウイルスの影響で苦しむ方たちがいる中、大騒ぎするお祭りはそぐわない。削るべきところを削る作業も進めています。そして延期によって加わる作業もある。最たるものがコロナ対策。組織委全体で対策を練っています」

 今、中村は大きなやりがいを感じている。

「特にパラリンピック。僕自身、これまで電車の中で障害を持たれた方がいても何をしたらいいのかわからなかったのが、自然に席を譲ったり、話しかけられるようになった。日本の子供たちが来年パラリンピックで感動し、コミュニケーションを取れるようになったら、彼らが大人になったときに社会が変わる。その機会に関わることができて非常に幸運だと思います」

中村英正なかむらひでまさ

1967年12月12日、スイス生まれ。幼少期はタイ、アメリカで育つ。'91年に東京大学法学部を卒業し、大蔵省(現財務省)入省。ハーバード大学ケネディスクール留学後、在米日本大使館、フランスのOECDで勤務。'14年5月より東京2020大会組織委員会に転じて企画と財務を担当し、大会ビジョン策定や財政面での大枠合意などに携わる。'18年6月に大会開催統括であるGDO、及びスポーツ局長に就任。現在「新たな出発本部」にて延期となった大会の準備に取り組む。NBAやNFLの熱心なファンでもある。

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