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田中恒成「これだけ必死だったのは
初の世界戦と木村さんの試合ぐらい」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/09 11:10
木村との世界戦に勝利後、田中は3度防衛し王座を返上。階級を上げて井岡一翔とのビッグマッチが予定されている。現在まで15戦15勝(9KO) 無敗。
「いままでとは違う木村翔に変わっている」
燃えに燃えた田中戦が終わったとき、木村は引退を考えていた。
帰りの新幹線では「もうボクシングは終わりだな」と少し感傷的になっていた。ところが現役続行を決意するまでに、それほど時間はかからなかった。
その理由はひと言では語れない。ただ、田中戦で得た自信、「まだまだ成長できる」という自分自身への期待が要因の1つとなったのは間違いないだろう。
木村はこの翌年、ライトフライ級に下げて世界王座挑戦に失敗。古巣の青木ジムがなくなったいまは、フィリピン人トレーナーとタッグを組み、新しい環境で再びフライ級で世界王座返り咲きを狙っている。
「いま、新しいことを取り入れて、いままでとは違う木村翔に変わっていると思います。田中くんとの試合で『ああすればよかった』、『こうすればよかった』はまったくないんですけど、いまの木村翔だったら、もう少しやりようはあるのかな、とは思っています」
「これだけボクシングに向き合ったことはなかった」
あの試合を明日ヘのエネルギーに変換し、新たな道を歩いているのは田中も同じだ。
田中は木村から奪ったWBOフライ級王座を3度防衛して返上。2020年はスーパーフライ級にクラスを上げ、井岡一翔に続く日本人選手2人目となる世界4階級制覇を視野に入れている。
そんなボクサーとしてスペシャルな道を歩む田中にとっても、木村との世界戦は単なる通過点ではなく、キャリアの中で屈指のターニングポイントになったという。
「あんなにがんばったことはそれまでなかったと思います。練習の量だけじゃなく、心の面でも、これだけボクシングに向き合ったことはなかった。
試合自体も一切弱気にならなかったし、1ラウンドから打ちにいって12ラウンドまでずっと落ちることがなかった。試合と過程が完全にリンクした、という感じでした」