ぶら野球BACK NUMBER
プロ野球では、叫んだっていいのだ。
観客のいない東京ドームで「あっ!」。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byYasutaka Nakamizo
posted2020/06/22 20:00
観客がいなくても歓声がなくても、プロ野球はプロ野球だった。
声もバットの音も聞こえてくる。
そして、その無観客での公式戦がどんな雰囲気で行われているのか目撃するために、翌20日に取材パスを申請して、デーゲームが行われる東京ドームへ向かったのである。
関係者入口では、手の消毒をしてから入館時間と退館時間を記入し、検温をするシステムだ。それを問題なく通過すると、三塁側の記者席へ向かう(場内には「立入禁止」の札も多かった)。観客席ではオレンジユニフォームと黒色ボードを使って「橙魂(とうこん)スタンドアート」が実施され、一面オレンジ色に染まっている。いったいどれだけの手間と時間がかかったのだろうか。球場スタッフの事前の準備には頭が下がる。
「さあいこう! さあいこう!」
試合が始まると、アウトをとる度、いや一球ごとにベンチの選手たちが拍手と声でグラウンド上のナインを鼓舞する。両軍ベンチの声はもちろん、先発投手・田口麗斗や岩貞祐太の投げた直後の咆哮までマウンドから聴こえてくる。
ボールがミットにおさまる音、バットでとらえる音。普段の野球観戦ではもちろん歓声にかき消されてこれだけの「生の音」は聴くことはできない。
無観客の「テレビマッチ」仕様。
一方で、巨人のチャンスには球場内に録音の応援歌が流され、一塁側と三塁側内野席に設置されたオレンジのお立ち台で、ヴィーナスたちはイニング間に懸命に踊った。今季からフェンス上部がLED仕様でオレンジ色に光り、オーロラビジョンにはSNS経由のファンからのメッセージが表示される。
今回の開幕戦は、いわば無観客であると同時に「テレビマッチ」なのである。
巨人対阪神戦の開幕カードは日本テレビが全試合地上波で生中継、ということはゴールデンタイムの他のバラエティ番組と視聴率で戦うことが求められる。
加えて、普段はほとんど野球を見ない日本全国の視聴者に対して「令和の巨人軍」をプレゼンするチャンスでもある。演出面も含め限られた条件の中で、東京ドーム全体から、今できることをやろうという意志を感じられた。