欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
無観客試合のブンデスで考える、
“フットボールの魂”はどこにある?
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byGetty Images
posted2020/05/27 20:00
バイエルンvs.フランクフルトの試合風景……静まり返った巨大スタジアムに選手の声とボールを蹴る音だけが響く。
スタジアムを埋め尽くした観衆の記憶。
およそ4年前、ペップ・グアルディオラが監督だった頃――。
CLの準決勝でディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーを迎え撃った時、アリアンツ・アレナに身を置いた僕が味わった脳髄の奥まで痺れるような感覚。
その夜にスタジアムを埋め尽くした観衆の、どこまでも燃え上がる感情の螺旋こそが、「フットボールの魂」だったのだ。
そしてその「魂」は、テレビの画面を通したとしても、人々に伝播する。でなければ、なぜ優に億を超える世界中の人々が、フットボールにとち狂うのか。
2020年5月23日にバイエルン対フランクフルトが行われたアリアンツ・アレナは、空っぽだったからこそ、僕に「フットボールの魂」の何たるかを教えてくれた。
前半の内に炭酸水を飲み干した僕は、後半に入る前、コーヒーを頼んだ。ウイルスのように忍び寄る眠気を吹き飛ばしたかったからだ。口をつけてすすると、舌がヤケドしそうになった。マスクが似合っていないウェイターが運んできたコーヒーは、目の前の無観客試合よりも熱かった。温度があった。画面の向こうの派手な打ち合いを目にしながら、僕の舌の先は、しばらくヒリヒリしていた。