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無観客試合のブンデスで考える、
“フットボールの魂”はどこにある?
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byGetty Images
posted2020/05/27 20:00
バイエルンvs.フランクフルトの試合風景……静まり返った巨大スタジアムに選手の声とボールを蹴る音だけが響く。
ソーシャル・ディスタンスのスポーツ・バーにて。
時刻は18時30分ちょっと前。
もうすぐ“再開”したブンデスリーガの第27節、バイエルン・ミュンヘン対アイントラハト・フランクフルトがキックオフだ。
バーの中にいた客は、僕を除けば3人。その内2人はスロットに興じていて、フットボールに興味はないらしい。奥に設置された大型スクリーンを見ているのは1人。僕はというと、入り口に入って右の壁に掛かった比較的大きい画面のテレビで見ることにした。
4人しかいないのでソーシャル・ディスタンスはバッチリだが、広々とした店内は寂しい限りだ。
新型コロナウイルスの感染が広がる前は、チャンピオンズリーグ(CL)の試合が放映される日など大いに賑わったものだが、“ウィズ・コロナ”の今となっては仕方がない。いつぞやバーを埋め尽くしていたファンたちは、今ごろ自宅で巣ごもり観戦を選択しているのだろう。ビールを飲む気にもなれず、僕はマスクが似合っていないウェイターに、炭酸水を注文した。
ホーム&アウェイという概念は成立するのか?
観客のいないアリアンツ・アレナで始まった試合は、なんとも味気なかった。
長谷部誠、鎌田大地という2人の日本人選手が所属するフランクフルトが、敵地で王者に戦いを挑んでいるというのに、ワクワクしない。まるで気持ちが昂らないのは、長谷部と鎌田が揃ってベンチスタートだったことも関係しているとは思うが、そもそも無観客試合において、ホーム&アウェイという概念が成立するのだろうか。
なにせ味方のチームを鼓舞し、敵のチームに圧力を掛けるファンは1人もいないのだ。
ふと僕は、マティアスがくれたメールを思い出した。
「ハロー、チヒロ。正直に言って、僕はブンデスリーガの再開に関して全くもって中立の立場だ。ドイツ国民は真っ二つに分かれていると思う。
一方では再開をとても喜んでいる人たちがいて、他方では新型コロナウイルスを理由に再開を早過ぎると考えているようだね。
僕はスタジアムに身を置くことの方が好きだけど、君も今週末に観たように、観客のいないスタジアムにはエモーショナルな雰囲気が全くない。僕からすると、トレーニング・マッチのようだった。フットボールの魂が失われている」