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無観客試合のブンデスで考える、
“フットボールの魂”はどこにある? 

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本田千尋

本田千尋Chihiro Honda

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photograph byGetty Images

posted2020/05/27 20:00

無観客試合のブンデスで考える、“フットボールの魂”はどこにある?<Number Web> photograph by Getty Images

バイエルンvs.フランクフルトの試合風景……静まり返った巨大スタジアムに選手の声とボールを蹴る音だけが響く。

すっかりコロナ前の日常が戻ってきた錯覚に。

 スーパーマーケットや服屋、靴屋など、着用の義務がある店舗の中では、誰もがマスクを付けるのだが、店の外に出た途端、外してしまう。

 そもそもドイツ人にはマスクをする習慣がない。その上、夏のように気温が上がっていることもあって、「こんなもの付けてられるか」といった風に、男女問わず乱暴に剥ぎ取る姿が目立つ。

 感染すると重症化するリスクが高いためか、高齢の方々は引き続き付ける傾向にあるが、その一方でマスクをしている若者は皆無に等しい。

 この光景に不安を覚えた僕はおかしいのだろうか? 

 毎日国内のどこかで感染者が確認されているとは言え、なかなか危機を感じにくいのは確かだ。

 リアルな戦争のように実弾が飛び交っているわけではない。空想が混じった例えだが、ノルマンディから上陸してライン川に迫った連合軍を、徹底抗戦したドイツ軍が押し返して、今はオランダあたりの大西洋沿岸で小規模な戦闘が続いている……そんな映像をSNSや何かで目にするわけでもない。

 もちろん医療現場の最前線を報じるニュースを読むことはできるが、基本的に僕たちはウイルスの存在を、政府の国立感染症研究機関が発表する数字でしか知りようがないのだ。

 だからと言って気を抜いて良いはずはないのだが、日が経てば経つほど、急速に街中の雰囲気は落ち着きを取り戻している。すっかりコロナ前の日常が戻ってきたような錯覚に陥ってしまう。

 いつもの春のように風はそよぎ、小鳥はさえずり、教会の鐘の音は響き渡り……その錯覚が錯覚だということに気が付かない人々が増えて、なんらおかしくない空気が漂っている。ロックダウンの最中は静まり返っていた窓の外からは、子供たちがはしゃぐ声が聞こえる。

マスクの着脱は自分で判断するドイツ人。

 端から見ていると、ドイツ人は店舗内でのマスク着用など定められた規則には律儀に従うが、“自粛”という概念は持ち合わせていないようである。

 みんながマスクをしているから私も付けよう、といった様子はない。

 日本のように“自粛警察”が出動している様子もない。着用義務の規則が適用されない場所では、付けるか付けないか、自分で判断している。

 こういった気質は、ドリブルか、パスか、シュートか、サッカーの試合中に選手たちが局面局面で迫られる個々の判断力にも通じるところがあるのかもしれない……そんな埒もないことを考えながら、旧市街から南に少し離れたところにある、馴染みのスポーツ・バーを訪れた。

【次ページ】 ソーシャル・ディスタンスのスポーツ・バーにて。

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