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オリンピアン一家に生まれ育った
室伏由佳と家族の絆。 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2020/05/06 11:00

オリンピアン一家に生まれ育った室伏由佳と家族の絆。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

35歳で引退も、まだやりたかった。

 父がそう言ってくれたこともあって、周りに何を言われても、正しく自分を追求して、絶対に成し遂げようという気持ちが強くなりました。いかに周囲に流されず自分を貫いていけるか、それを試されているんだなって。

 だから、しんどいな、辛いなと思っても、そういう言葉は口に出さないようにしていました。「じゃあ円盤投やめたらいいじゃないか」って言われてしまうでしょ?

 どうしても辛い時、自分の気持ちのバランスが取れない時は、やっぱり父に話を聞いてもらっていましたね。

 引退を決めたのは、体が限界だったから。目指していたロンドン五輪の前年には、重篤な腰痛症から歩くこともできないぐらい症状が重くなっていて。できるところまで頑張ろうと代表選考まではいきましたが、2位に終わって。35歳で引退を決意しました。

 ただ、体は無理でしたけど、私の気持ちはまだやりたいと思っていたんです。そう話したら父も40歳で引退する時に、同じことを思っていたらしいんですよ。50歳まではやろうと思っていたって(笑)。

祖母が生きる技と術、知恵を授けてくれた。

 他界してしまった祖母も恩人です。父は指導者として、兄と私は競技者として忙しい中、海外遠征の時は留守してくれたり、高齢になっても食事の準備をしてくれたり、家族の競技活動にずっと付き合ってくれて。実は祖母も100mと砲丸投の選手だったんですよ。家の中では私と祖母はライバル。兄弟喧嘩かと思うような本気の喧嘩をよくしたし、それがお互いのモチベーションになっていました。父が「喧嘩はやめなさい」とよく二人の間に割って入っていましたね(笑)。

 一方で、大切なこともたくさん教えてもらいました。料理や裁縫だけでなく、戦時中にスポーツをすることがどれだけ大変だったか、そんな話もよくしてくれました。スポーツができる幸せを教えてくれて、生きていくうえで必要な技や術、知恵を授けてくれた人。私が人生で一番影響を受けた人です。

 競技人生を振り返ると、たくさんの方が応援してくださって、それはとても励みになりましたが、私が苦しい時、辛い時に支えになったのはやっぱり父や兄、家族です。私の心のクセまで知っていてくれる人が周りにいる。それが私にとって一番の支えになりました。

 室伏家は、全員が独立していて、自分の柱を持っているような家族。でも付かず離れず、絶対にいてくれる。適度な距離はあるのですが、いつも等間隔で近くで回って動いている、人工衛星みたいな家族だと私は思っています(笑)。

室伏由佳

室伏 由佳Yuka Murofushi

1977年2月11日、静岡県生まれ。スポーツ健康科学博士。陸上競技男子ハンマー投オリンピック代表の父の影響で陸上競技を始める。女子ハンマー投の日本記録保持者、円盤投の元日本記録保持者(2020年5月現在)。2004年アテネオリンピック女子ハンマー投日本代表。2012年に引退。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部講師、(株)attainment代表取締役を務める。アンチ・ドーピング教育の研究や、スポーツと医学、健康などをテーマに講演や実技指導を行なっている。

ナビゲーターの俳優・田辺誠一さんがアスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。

第106回:室伏由佳(陸上)

5月8日(金) 22:00~22:24

室伏由佳さんはハンマー投で'04年のアテネ五輪に出場。円盤投でも日本選手権10連覇を成し遂げるなど、日本女子陸上投てき種目を長年に渡ってリードしました。現役時代に打ち立てた数々の記録を支えたのは、人並み外れたストイックさ。番組ではモチベーションを維持する秘訣を語るほか、様々な不調と戦ってきた経験をスポーツ界にいかすため、順天堂大学スポーツ健康科学部の講師を務めながら研究者として励む彼女の今に密着。手作りの料理などを通して素顔にも迫ります。

第107回:田村友絵(アルティメット)

5月15日(金) 22:00~22:24

田村友絵選手はフライングディスクと呼ばれるフリスビーを使って行なう競技・アルティメットの日本代表です。現在30歳の彼女の今の目標は「2028年まで現役を続けること」。その理由はアルティメット発祥国・アメリカで開催されるロサンゼルス五輪で正式競技に採用される可能性があるからです。そのために積極的に競技をPRすることへの思いとその先に描くプロ化の夢に迫るほか、過去の大ケガや会社員との両立生活をパワフルに乗り越えてきた彼女の原点を紐解きます。

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