“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J中断による、サッカーがない時間。
改めて意義を感じる水戸の取り組み。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/04/19 11:30
水戸・西村GMが中心となって始まった「Make Value Project」。選手にも変化が現れ始めている。(写真は3月上旬のもの)
「水戸1年目は一番充実していた」
MVPを通じて、彼のモヤモヤした不安と疑問が明確な目的と課題に変わっていった。
「社会人としての基礎を学びました。サッカー選手はサッカーのことしか知らないんだと痛感しましたし、触れ合う人間の幅が狭い。MVPは自分と深く向き合うこともできるし、講師の話を聞きながら、自分が何のためにサッカーをしているか、自分にとってサッカーとは何かを掘り下げる機会でもある。自分の中で疑問に思っていたプレーしていない時間の使い方、活かし方をより具体的に学べています。
いろんな業種、価値観の人と会うことで自分の考えを深めることで、自分の存在意義を考えることができている。漠然とした疑問に、ダイレクトな答えを導いてくれた。昨季過ごした1年間はプロ生活の中で一番充実していたと思います。
今回の講義で納得したことは、言葉で発言するときにこそ、頭を回転させ、自己理解、客観性などあらゆる要素を整理しながらやらないといけないということ。今までだったら思ったことをズラーっと口にして最後に『あれ、俺、結局何を言いたかったんだろ?』と思うことも多かったけど、自分なりに考えて行動することが習慣化したことで、今は整理しながら、どの言葉をチョイスしようかとイメージしながら話すようになりました。予測、発見、準備、選択、実行をプライベートから意識することで、サッカー面でも頭がクリアになったように思います」
「観点や言語化能力を養うことは大事」
今季、レンタルで水戸に加入しているMF山田康太はまだ3回程度の受講だが、MVPの意義をこう語る。
「もともと僕は人の話を聞くことが大好きなので、毎回面白いなと思って聞いています。自分にはない視野からの意見、視点の持ち方を知ることができて、いろんな考え方ができる。サッカー選手なので、サッカーを中心に考えるのは当たり前ですが、今のうちに多くの観点や言語化の能力を養うことは凄く大事で、自分のことを整理することでより話が面白く聞けるし、発見がある。自分が発言するときも一度考えてから出せるようになって、それがサッカーにも繋がっていく実感を持っています」
現在、各クラブが活動休止しているように、選手たちはサッカーができない状況に置かれている。自分と向き合う時間が増えたことで、自らの足りない部分をより強く感じていることだろう。中にはサッカーがない自分に焦りを感じている選手もいるかもしれない。
こういう状況下になったことで、日頃から水戸が取り組んできたMVPの意義を改めて痛感した。現在もMVPは定期的にリモートで開催されているという。
サッカーはできないが、学ぶ機会までもが失われたわけではない。外部からの刺激を得ながら、自分自身に向き合い、問いかけ、発見していくことに時間を費やす。学ぶ意欲はモチベーションに繋がり、発見は前進につながる。さあ、この時間をどう生かすか。