濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
試合激減でレスラーはどう生きる?
“絶対不屈彼女”安納サオリの肉声。
posted2020/04/20 11:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
「私を取材してください
この想いを話したいですわ。
うずうずですねん」
プロレスラーの安納サオリがツイッターにそう書いたのは、3月26日のことだった。この日、安納が主戦場としている団体、OZアカデミーの後楽園ホール大会(4月11日)が開催中止となった。「レスラーとしても人間としても憧れ」である尾崎魔弓と初のシングルマッチを行なうはずだった大会だ。
新型コロナウィルスはすべての団体・選手の活動に影響をもたらしたが、安納の“ダメージ”は特に大きかったかもしれない。昨年末に所属のアクトレスガールズを離れ、フリーになった。2月から試合を再開し、さあここからという時に“自粛要請”だ。3月の試合は予定の半分に減ったという。フリー1年目、顔と名前を売らなければいけない大事な時期に、予想もつかない邪魔が入ってしまった。
ツイッターを見てすぐにコンタクトを取り、スケジュールを合わせてインタビューしたのは4月6日、月曜日だった。緊急事態宣言の直前だ。
この週、多くの団体が長期間の大会中止・延期を発表している。
「“プロレスのない私ってなんなんだろう”って」
実際に会って話すと「もう気持ちを切り替えました」と安納は言った。「私、得意技が“切り替え”なんです(笑)」。
とはいえ、不安や戸惑いが完全に消えたわけではない。
「試合がなくなったのは、やっぱりショックですけどね。試合から離れることへの恐怖はあります。“プロレスのない私ってなんなんだろう”って」
安納は18歳で故郷の滋賀から役者を目指して上京した。
うまくいかずに「やさぐれていた」こともあったが、そこでスカウトされたのが“女優によるプロレス団体”というコンセプトのアクトレスガールズだった。
「見られるのが好き」な安納にとって、リングという表現の場はとてつもなく刺激的だった。