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フェデラーvs.同世代ロディック。
ウィンブルドン決勝の切ない結末。
posted2020/04/15 11:30
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
ウィンブルドンのクラブハウス内、センターコートへと出る通路の壁に記されている一文のことは、少なくともテニス通の間ではよく知られる。
“IF YOU CAN MEET WITH TRIUMPH AND DISASTER AND TREAT THOSE TWO IMPOSTORS JUST THE SAME”
――君がもし栄光と災厄に遭遇し得て、この2つの曲者をまったく同じように扱うことができたなら――
これは1907年にノーベル文学賞を受賞したイギリスの詩人ラッドヤード・キプリングの『IF』という詩の一部。詩には12の『If(もし)』が綴られ、最後に「この世とそのすべては君のもの。そして、君は一人前になる」と続く。
2008年のウィンブルドンでは、BBCの企画でロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルが全編を朗読し、100年も前の詩が現代に蘇った。
センターコートに向かう直前の訓示。
人としての品格を示すひとつひとつの「もし」は今の時代も胸に響き、前述の一節がウィンブルドンを居場所としたとき、「栄光と災厄」は「勝利と敗北」という具体的な事象となる。このいたずらな2つの運命を、まるで同じもののように受け入れることができたなら――。
センターコートでプレーをする栄誉に浴する者は誰もが、この崇高な訓示の門をくぐって戦いの舞台へ向かうのだ。
ファンがその意味を噛みしめようとするなら、それぞれに思い起こす伝説の一戦があるのではないだろうか。
近年映画化もされた1980年のジョン・マッケンローとビヨン・ボルグの死闘かもしれないし、<テニス史上最高の試合>とも謳われる2008年のナダル対フェデラーかもしれない。