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「ミランが北朝鮮だったとはな!」
解任ボバンが古巣に毒を吐いた理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/04/01 07:00
現役時代はミランのゲームメーカーだったボバン。ミランとのケンカ別れは当時を知るファンとしては悲しい。
ボバンが引っかかった「共有」。
滅多に取材に応えない彼が、2月下旬に『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のインタビューに応じ、名門再建の見通しを語った。
「エリオットは、サッカークラブは単なる投機の対象でなく、社会的・文化的、公共的な機関だと考えている。ミランはファンのものだ。サッカー界で我々ができうる最良のビジネスとは、新たなトップクラブを作り出すことだ」
ガジディスの美辞麗句は、ミラニスタたちに心地よく響く。彼はさらに「国内でも欧州でも頂点を狙える新時代のミランを作る、という目標を経営陣も現場も共有している」と強調した。
引っかかったのは、「共有している」という発言だ。ボバンは見過ごせなかった。
出資元から来たお目付け役として黒子だったはずのガジディスが、昨年末から現場介入どころか、自分たちのあずかり知らぬところで来季の監督人事工作に動いていたからだ。交渉相手はレッドブル・グループのスポーツ・サッカー部門ディレクター、ラルフ・ラングニック(前RBライプツィヒ監督)だった。
ラングニックとの接触を公然と批判。
戦友であるTD(テクニカル・ディレクター)のパオロ・マルディーニとともに、グラウンドの結果の責任を負うボバンは、物言わずにはいられなかった。2月末、ガジディスへの直接の答えとして、やはり『ガゼッタ』紙上で訴えた。
「(ラングニックとの接触は)誰のためにもならない。とりわけ現場のチームやピオリ監督が頑張ってくれて、ようやく結果も出てきた、今のようなタイミングで次期監督交渉とは何とも腹立たしい。現場に対して失礼だし、品がない。ミランにあるまじき行為だ」と、上役にあたるガジディスを公然と批判したのである。
「編成を預かる立場なのに、我々(ボバンとマルディーニ)には補強予算の限度額さえ知らされていない」とも述べた内容は、内部告発にも近いものだった。
インタビューから1週間足らず、ボバンは解任された。だからこそ、苦渋の思いで愛する古巣を北朝鮮に喩えたのだ。