“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
帝京長岡MF田中克幸は明治大に進む。
進路決定に悩んだ高校3年生の話。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/30 20:00
選手権ベスト4入りに貢献した田中克幸。春から明治大学に進み、サッカーと勉強の両立に励む。
「プロに行くことが目標ではない」
「いろいろなクラブに練習参加して、プロと大学の世界を比較しました。プロで活躍できるかと考えた時、現在の自分の力では厳しいのではないかと思ったんです。4年後、即戦力としてプロに呼ばれる存在になりたいと思ったし、明治大なら自分の課題である守備を鍛えられる。レベルも高く、十分に成長できる環境だと思いました」
大会後に改めて理由を問うと、より深い思考が見えてきた。
まず、彼の進路における時系列を振り返る。
選手権ベスト8に進出した高2の冬、明治大学を含む関東の強豪大学のいくつかとJ2甲府から練習参加の打診が届いた。田中はまず大学の練習に参加し、3月になると甲府の練習に参加。さらに夏休み前にもう一度、甲府に呼ばれ、その直後に岡山の練習に参加した。そして各方面から正式オファーが届き、じっくりと自分に向き合った。
「プロの練習はポゼッションでもミスが少なく、上手い選手ばかりだった。僕に対しても積極的にコミュニケーションをとってくれたことで、雰囲気も良く、楽しくプレーすることができた。
ただ、僕の中ではプロに行くことが目標ではなくて、その世界でどう活躍するか、どう生き残っていくかが重要でした。プロの世界に飛び込んで鍛えるという考えもありましたが、プロ生活はサッカー以外の時間が長いと感じたんです」
勉強を怠ると、サッカーもダメになる。
2部練習でない限り、午前や午後に1回練習をしたら、それ以降の時間はフリータイムになるのがJリーガーの日常だ。試合当日もメンバーに入らなければ、残ったメンバーで練習をした後に試合を観戦し、1日が終了となる。
もちろん自主トレをするなど、サッカーで使う時間はあるが、やはり企業などに勤める社会人と比べると、サッカー以外の時間は長い。その中でセカンドキャリアを考えて行動する選手、大学にも進学して両立する選手もいるが、中にはその時間の過ごし方が分からず、ただ時間を消費してしまう選手がいるのも事実だ。
「自分の性格はどうだ?と考えたときに、まだ弱い部分があると思ったんです。サッカー以外でリラックスできる時間が多すぎて、残りの時間の過ごし方に対する気持ちが薄くなり、楽な方に流されてしまうかもしれない。自分の課題に思い切りぶつかれないのではと思ったんです」
彼は自分の中にある弱さを認めた。だが同時に、自分の強さも把握していた。
「僕は勉強とサッカーをきちんと色分けできる自信があるんです。小、中学生時代はサッカーばかりで、学力は普通くらいだった。帝京長岡に来た時も、『サッカーでのし上がっていくんだ。高卒でプロになるんだ』と思っていたので、率先して勉強する気はなかったんです。
でも親に無理を言って寮生活をさせてもらっているのに、サッカー以外の時間で遊んでいたらダメだと思ったんです。それに勉強もしっかりとやらないと、サッカーもダメになると思ったし、大学進学を真剣に考えるようになったことで、より大事だと思うようになったんです。サッカー以外の時間を有意義に過ごすためには文武両道が必要だった。サッカーの時間と勉強の時間を自分の中ではっきりと分けて取り組むようになったら、両方ともうまくいくようになったんです」