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ノムさんの薫陶を受けた男が神宮へ。
楽天での13年、嶋基宏の献身の美学。
posted2019/12/23 11:30
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
楽天のファン感謝祭を皮切りに、サッカーのベガルタ仙台、バスケットの仙台89ERSといった地元クラブ、そして、昨年から自ら主催する運動会イベントで「地元・東北」に感謝を伝えた。
別れではなく巣立ち。楽天で13年間プレーした嶋基宏は、多くのファンから笑顔で送り出され、来季からの新天地となるヤクルトでの挑戦をスタートさせた。
10月。「勝負したい」と球団に自由契約を申し入れ、楽天を離れる決断を下した。
レギュラーを確約されないから、慣れ親しんだチームを去ったわけではない。仮に2番手、3番手からのスタートであったとしても、真剣勝負できる環境を嶋は求めた。
自由契約を報告する会見で紡いだ言葉が、それを物語っていた。
「プロ野球人生は1回。『勝負したい』という気持ちがなくなったら引退する時だと思うんで。僕はまだ、その想いが非常に強い」
嶋のリードと、それを支える信頼感。
そして嶋は、複数球団から獲得オファーがあったとされるなか、ヤクルトを新たな勝負の場所と決めた。
今季のチーム防御率は4.78、失点は739。ともに12球団ワーストだったヤクルトにおいて、捕手として経験豊富な嶋の加入は大きい。
楽天に入団当初から、現役時代に名捕手と称された当時の監督、野村克也の薫陶を受けたことは有名だが、「捕手・嶋」の特徴を挙げればやはりリードは欠かせない。
投手のタイプや性格を把握した上で、1球、1球、焦らずにじっくり攻める。「リードに答えはない」と言われるなか、それを理解し、最適な一手を冷静に見極めて配球するのが嶋という捕手である。
当然のことながら、楽天の投手のほとんどが嶋に全幅の信頼を置いていた。
'13年に日本一の原動力となった田中将大もそうだったが、現在の主戦である岸孝之や則本昂大たちは、勝ち星を自分だけの力で得たものだと過信せず、嶋のおかげだとバッテリーの共同作業を強調してきた。それだけ求心力が嶋には備わっているのだ。