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稲垣啓太、「0.166秒」の微笑み。
笑わない男とカメラマンの真剣勝負。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2019/11/15 20:30
首、肩、腕、脚、そして表情。日本を支えた稲垣啓太は、やっぱり大きかった。
穏やかな雰囲気が変わった質問。
撮影に続くインタビューで、彼は様々な話をしてくれた。Number PLUSの文章に掲載できなかったいい話が、ふたつだけある。
1つは宮崎合宿での地獄のような特訓の話、「本当にちびりそうになりながら」(稲垣談)夜遅くまで追い込み続けた話の時だ。僕はガッキーに、まあでも今思い出してみるとそれはそれで楽しい時間だったですか? と呑気に訪ねた時だった。
それまでの穏やかな雰囲気からガッキーは少し真剣な口調になり、声のトーンが下がり、あの細い目でこちらをグッと見ると(ちょっと怖かった)、こう答えた。
「いや楽しくないですね、まあこれは僕個人の主観なんですけど、楽しい楽しくないでラグビーやってないんですよ。ラグビーは自分の生活するための仕事です。そこで評価を得られなかったら自分は仕事を失うわけです。
しかもその頂点の日本代表、そこでポジションを争っているわけですよ。だから楽しい楽しくないとかではなく、これが自分の仕事なんだから、やるべきことはやらなければいけない、そんな使命感みたいなものがあるんです」
すみませんでした。
南アフリカ戦前に用意されたサプライズ。
もうひとつは、試合以外で大会を通じて心に残るエピソードがあれば、というリクエストに、ガッキーが語ってくれた話だろうか。
「南アフリカ戦の前のホテルでのミーティングで、ジェイミーが『今日はゲストを用意した』っていうと、最後の代表選考で落ちた選手を呼んで、彼らが部屋に入ってきたんです。布巻(峻介)、アニセ、カジ、堀越、(石原)慎太郎、(山本)幸輝。みんな来てくれました。特に何を話すっていうわけでもないんですけど、あれはとてもいい時間でしたね。涙ぐんでる選手もいました。
どんな立場であれ、ひとりひとりがチームに対して捧げてきた情熱、あるいは犠牲っていうのは、間違いなく財産となって残っていきますから。改めて自分たちの力だけで作ってきたチームじゃないんだなって。チームの一員として日本代表のために貢献したって、そこにいた選手全員が思っていた。だからたとえメンバーから外れても、僕らは彼らのことをずっとチームの一員だと思っていましたよ」
およそ1時間、スクラムの話、アイルランド戦やスコットランド戦の話、そして南アフリカ戦の話、どのエピソードも興味深く、いつまでも聞いていたいような物語だった。(それはNumber PLUSの記事「弱い姿は見せられない」で読んでください)