松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
廣瀬悠・順子夫妻(パラ柔道)、
東京2020への思いと人生の夢を語る。
posted2019/10/14 08:00
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph by
Yuki Suenaga
松岡修造が、パラアスリートと真剣に向き合い、その人生を深く掘り下げていく「松岡修造のパラリンピック一直線!」第六回のゲストは、廣瀬悠さんと順子さん夫妻。2人はともに視覚障害者で、日本の視覚障害者柔道を引っ張る存在であり、ともに前回のリオパラリンピックに出場。夫の悠さんは初戦敗退で涙を飲んだものの、順子さんは初出場で見事に銅メダルを獲得。そして、2人の物語は東京2020へとつづいていく――。
悠「僕は……早く引退したいです(笑)」
松岡「そして、いよいよ2020年です。悠さん、順子さんのストーリーがどうなっていくのか……。まず悠さんは2020年をどのように迎えたいですか」
悠「その時はもう41歳になっているので、正直にいえば、柔道家としては終わっているような年齢。これが最後、すべての力を出し切るつもりで臨みたいと思ってます」
松岡「狙うところは」
悠「うーん、3位決定戦で負けて、4位ですね」
松岡「………………。順子さん、今の言葉を聞いてどう思います?」
順子「私は、悠さんの精一杯の柔道ができたら、それで良いんじゃないかと思います」
松岡「そうか……。とりあえず、悠さんのことは置いておこうかな……。では順子さんはどうですか。リオで3位になり、次の東京で何を目指すのか」
順子「まずは2人で出場すること。個人的には、『東京で金メダルを獲ります』って言えるような実力を身につけて、自信ももっとつけて、最後は金メダルを獲りたいです」
松岡「もう本番まで1年くらい。早くやってきてほしいですか、それとも『時間よ、止まれ』って感じ?」
順子「そうですね、もうちょっと時間はほしいです」
悠「僕は……早く引退したいです(笑)」
松岡「引退? 何を言ってるんですか」
悠「多分、ほとんどの選手が感じていると思うんですけど、2020年の東京のプレッシャーって、ほんとうにすごいんですよ。それでつぶれていく選手をよく見ますけど、それぐらいの圧がある。みなさん、プレッシャーかけすぎです。プレッシャーに強い僕がそう思うくらいなので」
松岡「そんなにすごいですか、圧力が」
悠「僕たちもオリンピック選手たちが練習するナショナルトレーニングセンターで練習する時があるんですけど、東京は金を獲って当たり前と、選手だけでなくコーチや監督まで言われている。金メダルのプレッシャーたるやすごいです」
順子「確かに私も、そのプレッシャーを考えると、早く本番が終わってほしいなと思います」
松岡「今の状況を悠さんマインドで考えると、応援してくれるのは嬉しいけど、それを真正面から受け止めたら自分がきつくなるぞという感じですか」
悠「そうですね。『そこまで追い詰めんでもいいやん』って思います。金メダルが視野に入る選手たちは放っておいても練習をするじゃないですか。だからあそこまで言わなくてもなぁって。順子もリオが終わってから『次は銅メダル以上を取れ』と言われ続けて、それで次の世界大会は初戦で負けてますからね。プレッシャーに押しつぶされて」
松岡「そんなことがあったんですか……」