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甲本ヒロト×元安美錦関の超対談。
音楽界と角界「理想の引退」の形とは。 

text by

佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2019/09/18 19:00

甲本ヒロト×元安美錦関の超対談。音楽界と角界「理想の引退」の形とは。<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

熱狂的な大相撲ファンを自認する甲本ヒロトと元安美錦(安治川親方)の対談は、時に想定外の流れで展開する“超対談”となった。

安治川「『最後の相手は誰がいいかなぁ』なんて」

安治川「確かに『もう一度、踏ん張るか』とも思ったんですけど、日が経つに連れて気持ちが引退寄りになって行くんです。

 2日目に対戦して結果的に最後の相手となった新十両の竜虎。私が生まれた時に、親が考えたという名前がこの『竜虎』だったんです。同じ字なんですよ。『昔、そんな話を聞いたよな』と母に電話したら、『あら、覚えてたの? 結局、竜虎じゃなくて竜児(本名)にしたのよ』って」

甲本「うわぁ。そんな因縁は知らなかった」

安治川「そんな奇遇なこともあって、ずっと十両にいるような古株に負けて辞めるより、未来がある子に負けて辞めるほうがいいかなって(笑)。それまでも冗談で言ってたんですよね。『最後の相手は誰がいいかなぁ』なんてね」

――横綱・貴乃花引退の最後の対戦相手が安美錦だったと、今でも名前が出ますね。

安治川「それもあったので、最後の相手についてちょっと考えることはあったんですよ。もちろん、自分にとっては貴乃花さんは大き過ぎたんで、光栄ですけど」

甲本「現役生活を退いて『ひとつのことが終わってしまったな』というのはあると思うんだけれど、今度、『ここから何かが始まったな』という感覚はありますか?」

安治川「土俵の上で相撲を取ることが終わったというだけで、今は毎日、まわしを付けて、親方として土俵に下りています。自分の稽古をしていないだけで、1日のリズム的にも変わらないし、そんなに変わった実感は、まだないんですよね」

甲本「相撲に携わるスタンスがちょっと違うだけで、ずっと相撲をやっている感覚ですか?」

安治川「そうですね。毎日、稽古場に顔出して、『お前ら、ちゃんとやれよ!』とあくびしながら言ってますけどね(笑)」

安治川「いつも『ギリギリガガンガン』を聴いて」

甲本「そういえば、以前にお会いした時、伊勢ヶ浜部屋の方針として家族は本場所を見ないと聞いたんですが」

安治川「これは一門や部屋によっても違うんですが……『仕事場に家族は踏み入らない』とのことなんですね。『これが最後の一番だ』とわかっていれば、こっそりと2階席の後ろから見守るようなこともあるとは思いますけど、うちの家族は、国技館には来たことがないです。送り迎えで門の前までは来るんですけどね。そうそう、国技館に行く車の中では、いつも甲本さんの歌の『ギリギリガガンガン』を聴いてました」

甲本「え……。それは恐縮です」

安治川「うちの子どもたちも唄いますよ。『♪ギリギリ~♪』と唄っているから『どこで覚えたんだ?』と訊いたら、『パパの送り迎えの車の中でいつも聴いてたから』と。いつの間にか覚えてしまっていたようなんです」

甲本「……(感激の面持ち)」

【次ページ】 甲本「数秒間が、ものすごくドラマチックだった」

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