オリンピックへの道BACK NUMBER
素根輝が世界で見せた柔道の醍醐味。
162cmのハンデは「むしろ武器だと」。
posted2019/09/02 11:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Naoki Nishimura/AFLO SPORT
「小よく大を制す」
昔から語られてきた、格闘技における醍醐味の1つだ。柔道もまた、そこに含まれる。
そしてそんな言葉を思い起こさせる選手が、柔道の世界選手権で金メダルを獲得した。
女子78kg超級の素根輝である。
届きそうで届かない――。大会前半、男女それぞれで生まれた金メダルだったが、後半、惜しくも銀メダルに終わる選手が相次いだ世界選手権。
その流れを受けて、個人戦の最終日である31日、素根は出番を迎えた。
第一人者オルティスとの決勝戦。
素根は初戦から順調に勝ち上がると、決勝でイダリス・オルティスと対峙する。北京五輪から3大会連続でメダルを獲得し、2012年ロンドン五輪では金メダル。現在の世界ランキングは1位。まぎれもなく、この階級の第一人者である。
試合は両者譲らず、拮抗した戦いが続く。容易に技が出ず、両者に指導が与えられる。さらに試合時間残り48秒で、素根に2つ目の指導。あと1つ受ければ反則負けとなる。
だが、そこから素根の持ち味であるスタミナが生きた。オルティスの動きが落ちる一方で、素根に低下はない。
延長に入り1分1秒、消極的姿勢に対しオルティスに2つ目の指導。さらに4分9秒、試合時間計8分9秒、小内刈りをかけて押し込んでいく素根に対し、オルティスはひるんだように場外へ下がる。3つ目の指導。
今大会、日本にとって男女を通じて4個目となる金メダルが生まれた瞬間だった。
19歳、初めての出場でつかんだ栄冠だった。
「何が何でも勝つという気持ちで、どんな勝ち方でも絶対に勝つ、という気持ちでした」
素根は振り返る。根底には、1年前の屈辱があった。