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「3人が甲子園に集まることはない」
あの夏の佐賀北OBが語ったこと。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byMiki Fukano
posted2019/08/09 18:00
母校に集まった、真崎貴史、久保貴大、副島浩史。彼らの中には、2007年の記憶が今もはっきりと息づいている。
3人のOBが佐賀の監督として戦った。
2019年、真崎は高校野球の監督になった。現監督と書くのは正確ではない。2017年秋から率い始めた杵島商業は白石高と再編統合の過程にあり、3年生のみ12人で臨んだ今夏の県大会は初戦敗退。全員が引退し、杵島商野球部としての活動は終わった。
今年の夏の佐賀県大会では、真崎のほか、2人の佐賀北OBが監督として戦った。広陵との決勝戦で満塁弾を放った副島浩史は唐津工業の監督として、エースで優勝投手となった久保貴大は母校・佐賀北の監督として大会に臨んだ。
真崎の杵島商を下したのは佐賀商で、副島の唐津工は佐賀商に勝った。
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唐津工は鳥栖に敗れ、その鳥栖と決勝で戦うことになったのが、久保の佐賀北だった。
佐賀北は勝ち、甲子園出場を決めた。1年前は初戦敗退、今年もノーシードから勝ち上がっての優勝は、“がばい旋風”の再来を予感させた。
「先生、応援に行くんですか」
母校の教室に3人が集ったのは、そんなタイミングだった。揃って佐賀の県立高校で野球の指導者になった男たちは、一様に黒く日焼けしていて、笑うたび見える歯の白さが際立っていた。
座談会の中身は、Number本誌をご覧いただくとして、印象的だったやりとりをここに記したい。
真崎と副島は、母校の甲子園出場を喜びつつ、応援には「行かない」と明言した。同県で指導者となったいま、意気揚々とアルプススタンドに馳せ参じるわけにはいかないのだ。
副島は、こんなふうに言って笑った。
「母校が(甲子園に)行ってさ、しかも同級生が甲子園に監督として戻るってなったら、めちゃくちゃうれしいんだけど、複雑な感情があるのはたしか。生徒から言われましたけどね。『先生、応援に行くんですか』と。『誰に言っちょっとか』って言いましたけど。それでもまだ『行ってきていいですよ』とか言いよる」