令和の野球探訪BACK NUMBER
「考える野球」で甲子園初勝利。
国学院久我山の強さは日常にある。
posted2019/08/09 12:40
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Kyodo News
28年ぶりの夏。国学院久我山が初戦を突破した。
同校にとって初めて甲子園に出場した1979年春から数えて6度目となる今大会。強豪・前橋育英に7−5で競り勝ち、記念すべき甲子園初勝利となった。
28年前、まだ1歳だった29歳の青年監督・尾崎直輝は悲願達成の瞬間を「集中しすぎていてよく分からなかった」と苦笑いする。
真っ赤に染められたアルプススタンドからの大歓声を背に選手たちは誇らしげに列に加わっていく。その姿を見て、尾崎は傍らで戦況を眺めていた記録員の野呂直大に「夢みたいだな。今、どんな気持ちだ?」と尋ねた。すると野呂は「最高の気持ちです」と笑った。
ミスしても、リードされても。
「常に前向きに」
監督・選手から頻繁に出るこのフレーズを夢舞台でも有言実行した。1回表に2安打を放ちながらも無得点に終わり、その裏に先制を許した。さらには2回に悪送球で2点目を失った。それでも尾崎は「甲子園でのエラーは思い出になるぞ」と笑って選手に語りかけた。
「(国学院久我山で過去)誰も勝ててないわけですからプレッシャーはありませんでした」
尾崎がそう振り返るように、思いは選手にも伝わる。
3回に先頭の9番・青木友宏から、1番・西川新、2番・岡田和也と続く3連打と犠牲フライで2点を挙げた。バント無しの強攻策で同点に追いついた。以降はシーソーゲームだったが、選手たちは常に冷静だった。
5回表の攻撃で三者凡退に終わり、右翼手の岡田は裏の守りに就く前に中堅手の西川と「この回、1点は取られるかもな」と話したという。だが、相手の攻撃を見て「なんとしてでも2点で止めるようにしよう」とイニング途中で方針を変えた。各自がゲームプランを考えながらプレーすることは、このチームにとっての日常だ。選手たちは慌てることなく、反撃の時を待った。