「本当に驚くほど大人数で行動していた」

　一方、中村は入寮当時のことをあまり覚えていない。

「僕の部屋がたまり場？　そうやったかなぁ……。でも寮は楽しくて、いい思い出しかないですね」

　大阪桐蔭高校といえば厳しい規則がある選手寮が有名だが、中村は高校時代、実家が近かったために寮生活の経験はない。

「親元を離れたのは初めての経験でしたけど、特に困ったことはなかったですね。食事がちゃんと出るし、ご飯もおいしかった。何よりグラウンドが近いので、移動時間が短いのがうれしかったです。みんな仲が良くて、寮生で一緒にボウリングに行ったり、外食したり、本当に驚くほど大人数で行動していた。楽しい思い出しかないですよ」

　中村は5年間の若獅子寮での暮らしをそう振り返った。

「ギンさん、なぜか僕の部屋で寝てました」

　2007年に埼玉栄高校から高校生ドラフト1巡目で入団した木村文紀は、中村同様、当時の寮生の仲の良さを証言してくれた。

「いちばん仲がよかったのはギンさん（炭谷銀仁朗・巨人）ですね。ルーキーのときからいつもギンさんと一緒にいて、ギンさん、なぜか僕の部屋で寝てましたから（笑）。僕は当時、まだファームで、ギンさんが一軍。ナイターを終えて寮に帰ってくると、ギンさん、まっすぐ僕の部屋に来て『映画見ようぜ』と言うんです。毎晩ですよ。ギンさんは次の日もナイターだからいいですけど、僕は『明日デーゲームっすよ』と言いながら映画を見て、そのまま寝落ち。ギンさんは自分の部屋に服を着替えにいくだけで、ずっと僕の部屋にギンさん用の布団も敷きっぱなしでしたから」

　誰かがビリヤード台を買ってきて、中庭に置いたこともあった。

【次ページ】　思い出せば笑顔がこぼれる。