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「40歳になっても4回転を飛びたい」
織田信成に宿るフィギュアスケート愛。

posted2019/07/10 11:00

 
「40歳になっても4回転を飛びたい」織田信成に宿るフィギュアスケート愛。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph by

Shigeki Yamamoto

顔をくしゃくしゃにして笑ったと思えば、ときにはライバルに声援を送り、仲間のために泣く。現役時代、織田信成はスケーティングだけでなく、リンクの外でも人々を魅了してきた。2013年の引退から6年。多くのメディアに登場し続けているのは、織田のキャラクターがたくさんの人に愛されている証しだろう。そんな織田が今も変わらぬフィギュアスケート愛を語った。

 フィギュアスケートには芸術的側面とスポーツ的側面がありますが、僕はジャンプが得意な選手として皆さんに注目してもらったし、ジャンプが好きなので、自分ではアスリートだと思っています。ジャンプを飛ぶことが楽しいし、決まった瞬間は本当に気持ちいい。もちろん飛べない時の苦しさや悔しさはありますが、人生と一緒で、そういうことを乗り越えて成功したときほど、やってよかったと思えるんです。40歳になっても4回転を飛んでいたいと思うぐらいジャンプが好きです。

 現役時代は今よりももっと強く自分はアスリートなんだと思っていました。ジャンプも表現や演技の一部だということを強く自覚できるようになったのはアイスショーに出るようになってから。自分はまだまだその域に達していませんが、表現者やアーティストの気持ちに少しずつでいいからなりたい、なれたらいいなと思って毎日練習をしています。

 とくに引退してからは自分の表現したいことや、滑ってみたい曲のアイデアなどが湧き出してくる感じがすごくあって、それを毎回毎回身体で表現するのがすごく楽しい。

 曲については新しいプログラムを作ったら、すぐに次のプログラムの曲を探すので、基本的に1年間ずっと考え続けています。曲探しで難しいのは自分のフィーリングだけで決めてしまうと、僕の場合は結構失敗してしまうということ。いいなと思ってからも何カ月も聞いて、それでもやっぱりいいと思えて初めて滑ってみようということになる。だからずっと候補曲ばかりを聞いていますね。

 現役時代はダンディで、クラシックで、格好いい曲への憧れがものすごくあったのですが、僕がやったら、違う意味で滑ると思っていて(笑)。格好いいと思われるものには絶対に手を出さないようにしていましたし、逆にそのジャンルはお任せするので、お笑い系は僕にくださいという感じでした(笑)。

満足できる演技ができた時、2つの喜びが。

 曲が決まったら振付師の方に、こういう曲で滑りたい、こういうアイデアがあると伝えて、一緒に振り付けをしていきます。僕からの提案に「それいいね」って言ってもらえるように、なるべく自分でもしっかり動くようには意識しています。フィギュアスケートはすごく華やかに見えますが、練習の時間は意外と素朴で、毎日同じことの積み重ねです。僕はそういう毎日コツコツやるというのがすごく好きなので、性格的にも向いているんでしょうね。

 演技中はずっと緊張感がありますが、同時にすごく充実感にも包まれていて。とくに自分が思う通りのスケーティングをできた時は、これが生きているということなんだろうなと感じるんです。自分がやりたいことを見てもらえて、認めてもらえて、たくさんの方に拍手をいただける。あぁ、自分は今生きてるんだ!と思う瞬間です。

 同時に演技が終わったときはものすごくしんどくて、“やっと終わった~!”みたいな、サラリーマンの方がひと仕事終えた喜びも感じています(笑)。一方でジャンプが決まった時は、ダーツで“真ん中に刺さった!”みたいな喜びです。“解放された、わ~い! いっぱい飲めるぞ!”みたいな解放感あふれる喜びと“おっ! 入った!”みたいな成功の喜び。同じ喜びでも質が違うんですよね。だから最高のジャンプが飛べて、満足のできる演技ができた時は、2つの喜びが一気にきて、2倍の達成感を得られるんです。

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