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井岡一翔の緻密で美しい4階級制覇。
山中慎介、井上尚弥と違うスター性。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2019/06/20 14:45

井岡一翔の緻密で美しい4階級制覇。山中慎介、井上尚弥と違うスター性。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

序盤は押され気味の展開だったが、徐々に持ち味を発揮し始めた井岡。勝負に出た10回、パリクテを仕留めた。

井岡が覚悟を決めた瞬間。

 すっかり勢いをそがれたパリクテが勝負に出たのは7回だ。前に出て立て続けに連打を繰り出すと、井岡がズルズルと後退し始める。パンチがヒットしたようには見えなかったもののダメージを負ってしまったのか? 幕張メッセはたちまちざわついた。

「まともにもらってない。でも、ガードの上からでも脳が揺れた」

 もしこのまま崩れていれば「階級の壁」が敗因として語られていたに違いない。ミニマム級からクラスを上げていった井岡はスーパーフライ級の真の強打者のパンチに耐えられなかったのだと─―。

 しかし、井岡はここで気持ちを奮い立たせた。

「相手が勝負にきたと思った。ここで打ち合わないと勝てない。覚悟を決めて打ち合った」

 防戦一方から一転、井岡が反撃に出た。両者のパンチが交錯する。パワーならパリクテだが、回転力は井岡が上だ。井岡のボディブローでフィリピンの強打者がペースダウンした。

 迎えた10回、井岡が右ストレートをカウンターで叩き込むとパリクテが大きく後退。一気に勝負に出て連打をまとめると、フラフラになったパリクテを主審が救った。雄たけびを上げて井岡がコーナーにダッシュ。会心の勝利に喜びを爆発させた。

「リングの上で証明するしかなかった」

 2017年大みそかに突如引退表明をし、翌'18年夏に4階級制覇と海外進出を掲げて現役復帰を表明。わずかな期間で引退を翻したことに冷ややかな視線もあった。

 プライベートでの離婚の記事が週刊誌をにぎわせたこともあり、心中穏やかではなかったはずだ。

 そうした中、昨年の大みそかにマカオで3階級制覇の実力者ドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBO同級王座決定戦に敗れ、一度は4階級制覇に失敗した。あとのない状況で巡ってきたのが、ニエテスの王座返上による今回の王座決定戦だった。

「もう一度ボクシングをやると言った以上、後戻りできないですし、口だけで終われない。リングの上で証明するしかなかった」

 勝利への強い気持ちが最終的にパリクテの心をへし折った試合でもあった。

【次ページ】 井上らの活躍にも「自分のやることを」

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