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WEC参戦1シーズン目で
年間チャンピオンに挑むアロンソ。 

text by

古賀敬介

古賀敬介Keisuke Koga

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photograph byTOYOTA

posted2019/06/13 16:00

WEC参戦1シーズン目で年間チャンピオンに挑むアロンソ。<Number Web> photograph by TOYOTA

チームエンジニアと入念にセッティングを詰める元F1チャンピオンのアロンソ(右)。

「中嶋こそキャプテンだ!」

 しかし、中嶋はその不安を一蹴した。

「まったく心配していません。フェルナンドのような、レースが巧いドライバーは、周回遅れの処理も上手だから」と、アロンソに全幅の信頼を寄せていた。

 果たして中嶋の予想は正しく、ル・マンでのアロンソは、夜間のセッションで誰よりも速く、安定していた。彼がステアリングを握った8号車は、暗闇の中、首位を快走していた僚友の7号車を激しくチャージし、大きく開いていた差を一気に縮めたのだ。それが勝負の転機となり、その後、8号車は逆転に成功。中嶋、ブエミ、アロンソの3名は誰よりも速く24時間を走り切り、トヨタにル・マン初優勝の栄誉をもたらした。

 7号車と8号車の実力は拮抗しており、もし夜間にアロンソが差を大きく縮められなかったら、ル・マンの女神は7号車に微笑んでいた可能性もある。つまりアロンソは、8号車優勝の立役者とも言えるが、歓喜の表彰式では至って謙虚だった。

 チームメイトの活躍を讃え、中嶋に対しては「彼こそキャプテンだ!」と最大限の賛辞を送り、ブエミと共に中嶋を肩に担ぎ上げた。チームプレイヤーとして、アロンソは自分に課せられた役割を完璧に果たし、8号車にとって、そしてトヨタにとってなくてはならぬドライバーとなったのだ。

「完璧なドライバー」にまた一歩。

 ル・マンでの優勝後、しばらく8号車に追い風は吹かず、流れは7号車にあった。しかし、’19年に入ると8号車は再び勢いを盛りかえし、シーズン2回目のル・マンを前に、セブリング1000マイルとスパ6時間で優勝。いずれも非常に難しいレースだったが、アロンソは自分の仕事を完璧にやり遂げ、トヨタに2014年以来2度目となるチームタイトルをもたらした。

 そして、最終戦のル・マンで連覇を達成すれば、年間チャンピオンにも輝く位置につけた。今やアロンソはWEC最高のドライバーのひとりであり、純粋な速さはもちろん、周回遅れを抜かす際の安定性も抜群に高い。また、ドライビングミスも極めて少なく、彼が人生の目標に掲げる「完璧なドライバー」に、また一歩近づいたといえる。

 今シーズンをもって、アロンソはチームを離れ、耐久レースをひとまず卒業する。永遠の挑戦者は、また新たなる頂きを世界のどこかに見つけたのかもしれない。しかし「近い将来、必ず戻って来る。なぜなら、僕はこのレースを本当に好きだから!」と、惜別の情を言葉にした。

 1シーズンを共に戦った中嶋は、アロンソに感謝と激励の気持ちを捧げる。

「フェルナンドから多くのことを学びました。彼の存在はとても大きかったので、いなくなってしまうのはやはり残念です。でも、彼の新しい挑戦を応援したいし、最後のレースとなるル・マンを共に全力で戦いたいと思います」

 2度目のル・マン24時間優勝と、ドライバーズタイトル獲得という目標を実現するため、シーズン最後の一戦で、アロンソは究極の耐久ドライビングを見せてくれるはずだ。

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