WEC参戦1シーズン目で
年間チャンピオンに挑むアロンソ。

　F1のキャリアに終止符を打ったフェルナンド・アロンソは、TOYOTA GAZOO Racingの一員として、2018年からWEC（世界耐久選手権）への参戦を開始した。シーズンの開幕を前にテストで走行を重ね、5月の開幕戦スパ6時間で初戦を迎えた。元F1王者の新たなる挑戦は大きな注目を集め、ビッグスターの自信に満ちた言葉を聞くべく、メディアは取材のマイクを向けた。しかし、当のアロンソは意外に思えるほど謙虚だった。

「TS050 HYBRIDは信じられないくらい速く、そして洗練されたクルマだ。速く走らせるためには頭を使わなくてはならず、F1とはまた違う難しさがある。テストで長い距離を走り、かなり特性を掴んだとは思うが、それでも完全に乗りこなせているという自信はまだない。8号車の一員として、（中嶋）一貴やセバスチャン（・ブエミ）に教えてもらいながら、少しでも早く成長しようと日々努力している」

　F1時代の実績をもとに語るならば、アロンソは中嶋やブエミよりも大きな成功をおさめている。それでもアロンソは、耐久レースの先達である彼らチームメイトを心からリスペクトし、自分はチームの一員に過ぎないという姿勢をまったく崩さなかった。

　しかし、アロンソはやはり「ただのルーキー」ではなかった。WEC初戦となったスパ6時間では、TS050 HYBRIDをほぼ完璧に乗りこなし、大きなミスをすることなく担当スティントを走りきり、8号車のチームメイトと共に表彰台の中央に立った。

「最高の気分だ！　今日はここで寝るから、明日迎えに来てほしい（笑）」

　表彰台上で中嶋とブエミにそう伝えたアロンソは、会心の笑顔でチームメイトと優勝の喜びを分かちあった。ビッグレースでの久々の優勝。アロンソは、勝利に飢えていたのだ。

特殊なドライビングを実践できるか。

　デビュー戦を優勝で飾ったアロンソだが、続くル・マン24時間は未知なる一戦だった。一部公道を使うサーキットであるが故に事前の走行時間は限られ、夜のセッションや、降雨時の走行も不安要因だった。しかし、それ以上に懸念されたのが、早めのブレーキングでエネルギーを回生しながら、周回遅れのクルマを抜き続けるという、特殊なドライビングを、果たして長距離長時間のレースで実践できるかどうかだった。デビュー戦のスパでは、周回遅れを処理する際、チームメイトよりも僅かながらタイムロスが大きかった。24時間レースでは、その差は積算され、大差となる可能性もあった。

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