「溝脇と二遊間を組んでから引退したい」

　何かとかわいがってくれた同郷の先輩。本来なら自分の成長で引退を決意させることが恩返しなのだが、乗り越える前に壁は消えてしまった。先輩と後輩からコーチと選手に関係が変わったが、それだけに荒木先輩は甘えを許さなかったという。

「他の選手以上に厳しく接しているつもりです。そうじゃなきゃ、周りは『同じ熊本だから』と思うじゃないですか。僕は3安打程度じゃ物足りない。最初に一軍に上がれなかったときは辛抱してやることをやっていこうと言いましたが、上がるときにはもうこっちには帰ってくるなという気持ちで送り出しました。

　もちろん、それは他の選手が上がるときも同じなんですが、下で苦労した選手が上を変えるくらいの活躍をしてもらいたいですからね」

　荒木と同じく、溝脇も高校では遊撃手として鳴らし、プロへ入団した。だからこそ、スカウト部は溝脇に背番号48を提示した。これは入団当初の井端弘和がつけていた番号だからだ。48番をつけた井端も二軍で鍛え抜かれ、一軍に巣立ち、6番に出世した。現役終盤の荒木には「溝脇と二遊間を組んでから引退したい」という希望があった。

　現在の溝脇は二塁を中心に守っているが、ルーキー時点での期待値は「ポスト井端」だったのである。

プロ7年目を迎える溝脇。

　荒木のようにひたむきに、井端のようにいやらしく。出身地、背番号、打順、守備位置……。溝脇という選手はアライバから濃厚なDNAを継承する内野手だ。荒木が一軍に定着したのは6年目。井端がレギュラーを奪ったのは26歳になるシーズン。落ちこぼれる寸前だった溝脇にも十分にチャンスはあるということだ。

　それにしても、与田監督はこうしたほこりをかぶっていた才能をすくい上げるのに長けている。前からいるのに新戦力。こんな選手がこの先も現れそうだ。