マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
佐々木朗希、だけじゃない東北投手。
仙台大・宇田川優希はまるで“野茂”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySendai University
posted2019/05/22 08:00
仙台大・宇田川優希。野茂英雄を想起させるような剛腕が東北の地に現れた。
監督も思わず「打てんわ……」
音を聞きつけたのだろう。いつの間にか、森本吉謙監督が宇田川優希を受けるキャッチャーの真後ろにしゃがんで、ネット越しに、えらいことになっている球筋にじっと見入っていた。
50球ほど投げた最後の3つ。
速球、スライダー、フォークを1球ずつ、右打者の外角低目に投げ直しなしでピシャリ。きっと監督さんに見せつけてやろうと思ったはずの、ベストボール3つをきめて、その日のブルペンを締めくくってみせた。
「打てんわ……」
ひと言つぶやいて腰を上げた森本監督は笑っていなかった。
むしろ、怖いものでも見てしまった顔になっていた。
東北福祉大との決戦では負けたが。
数日後、「決戦」は東北福祉大の連勝で終わった。
仙台大・宇田川優希は、日曜日の2回戦に先発した。
東北福祉大打線を2安打無四球に抑えて6三振を奪い、1点に封じて完投したが、仙台大打線も、東北福祉大の左腕・山野太一、サイドハンド・津森宥紀……プロに進むだろう2人に完封されてしまった。
持てる力をすべて発揮して、なおわずかに力及ばず。
残念だったろうな……と思いながら、見られなかったその試合で、マウンドから剛球、フォークを投げまくる宇田川優希を思い浮かべていて、アッと思った。
そうだ、野茂だ、誰かに似てると思ったんだ、野茂だわ……!
この先の「東北」は忙しそうだ。
岩手の高校に「佐々木朗希」が現われたと思ったら、今度は、宮城の大学から「野茂英雄」みたいなヤツが現われた。