野球のぼせもんBACK NUMBER
中村晃の明るい表情にほっとする。
完璧な本塁打に笑って「まあまあ」。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKotaro Tajiri
posted2019/04/29 11:45
完璧なホームランを放ち、ベンチに帰ってきてこの表情。誰もが中村晃の復活を願っている。
三軍の若手が中村に質問攻め。
ホークスの若手選手たちは貪欲だ。“生きた教材”と一緒にプレーできる機会の中で何かヒントを掴もうと、練習中も試合中も、中村晃へ積極的に声を掛ける場面がかなり多くあった。
28日の試合で中村晃に次ぐ2番打者で出場した、横浜高校から入団して2年目の増田珠もその1人だ。
「ネクストバッターズサークルから見ていましたけど、間合いの測り方や右足を上げてからの粘り、バットの使い方もすごいなと感じました。スイングの幅が大きいというか、体の力が打球に伝わっているのが分かる。身長は僕とそれほど変わらないのに打球が強い。
また、試合中のベンチで本塁打の打席のことも訊ねてみたんです。『あのカウントになったし外角球でも引っ張り込もうと思って待っていて、少し内寄りに来たのをその意識のまま対応した』と教えてもらいました。ただただスゴイなという思いだけですが、一緒にやっているからパッとそのような話も聞くことが出来ます」
工藤監督「全力で彼をサポートしたい」
ホークスの中心打者といえば真っ先に名前が挙がるのは柳田悠岐かもしれないが、チーム首脳陣は中村晃についても同等の評価をしている。
チーム事情により打順や守備ポジションがコロコロ変えられる。昨シーズンも打順は1、2、3、5、6番で出場した。そのような起用を「リズムが変わる」と歓迎しない選手の声をよく聞くが、中村晃は「それは言い訳に過ぎないでしょ」と文句のひとつも言わず淡々と結果を残してみせる。
今シーズン、ホークスの一軍は開幕直後からずっと故障禍に悩まされている。SNSを覗いてみると中村晃のこの打棒を聞きつけた多くのファンが復帰待望論を唱えていた。
だけど、まだ今は何も言わずに見守っていてほしい。
見通しは立てず、今後もその都度の状態を試合直前まで確認しながら出場の可否を判断していくことになる。工藤公康監督は「チームとして全力で彼をサポートしたい。チームメイトもみんなそう思っている」と明言している。
前進があれば後退もあるかもしれない。だけど、中村晃は試練を乗り越えようとしている。野球への熱は1ミリだって失ってはいない。
自分の居るべき場所へ戻ろうとしている姿がこの2日間確かにあった。