ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
勝った田中恒成と、敗れた田口良一。
両者はこの激戦で何を手にしたのか。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKyodo News
posted2019/03/18 17:00
互いの力を出し切った田中恒成(手前)と田口良一、彼らがこの試合から持ち帰った感覚は想像すらつかない。
全国区の知名度を得た田中恒成。
チャンピオンにとって、いろいろな意味で収穫の多い試合だったと思う。文句なしの実力を持ちながら決して“メジャー”とは言えない田中は、チャンピオンとしてのステージを上げるべく、この試合を通じて大きなアピールをしたかった。
対戦相手の田口はWBAライトフライ級王座を7度防衛し、2013年に“モンスター”井上尚弥(大橋)とフルラウンド戦い抜いたという実績を持つ。田中と田口は2017年に一度はライトフライ級の統一戦が内定しながら、田中のけがで試合が流れたという因縁のストーリーもあった。
こうした事情もあり、田中は全国放送の主役を務めた試合で、白熱した試合を提供できた。それが第1の収穫である。
田中陣営が感じた、田口の「男の根性」。
第2の収穫は、田口と拳を交えたことが、田中のボクサーとしての成長を促したであろうことだ。試合後、田中の父、斉トレーナーは次のように話した。
「(田口には)ラストチャンスをつかみに来ている男の根性ちゅうのはものすごく感じたね。それが田口くんにあって恒成にないところ。それを突き抜けないといけない。打ち合うのはできる、効かせとった、倒すチャンスも何回もあった。(田口のクリンチを)ふりほどくくらいのずるさがないといかんね。まだまだです、恒成は」
田中は試合後の取材で、試合翌日の記者会見で、同じ話を繰り返した。
「試合直後に抱き合ったとき、(田口が自分に)ずっともたれかかっていたんです。半分立っているか分からない状態。それくらい出し切っていたし、それくらいの思いで立ち続けていた。それが一番心に残っています」
昨年9月、タイトルを奪った木村翔(青木)との試合では、日本ボクシングコミッションとWBOの年間最高試合に選ばれる激闘を演じ、打撃戦にめっぽう強い木村に打ち勝った。エリート街道を歩んできた稀有な才能を持つ23歳にとって、今回の試合は木村戦に続いてかけがえのない試合となったのである。