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藤田菜七子が語っていたGIの願望。
「いつか乗せていただけるように」
text by
井上オークスOaks Inoue
photograph byShin Suzuki
posted2019/02/04 10:30
2018年は28勝を挙げるなど、着実に歩んでいる藤田奈七子。フェブラリーSで初のGI騎乗を果たす。
目標はいつでも「次の1勝」。
実際、1年目とは騎乗フォームがまったく違う。重心が低くなり、馬に張り付くような姿勢に変化したことが見て取れるのだ。師匠の根本調教師も「以前は腰も肘も浮いてしまって、足もバタバタしてしまっていた。でも今は、ぜんぜん違います。ピタッとしているでしょう」と言ってほほ笑む。
「『乗り方がよくなったね』と言っていただけるのが、なにより嬉しいです。まだまだ課題は多いですが、安定して乗れるようになってきたのかなと思います」
2018年6月には31勝に到達、JRAの規定をクリアし、ついにGI騎乗が可能になった。初騎乗はいつになるのか? 周囲の期待は高まるが、本人はいたって冷静だ。
「目標は今も変わらず、『次の1勝をすること』。いつかGIに乗せていただけるように、一鞍一鞍大事に乗っていきたいです」
浮ついたところが少しも感じられない21歳。“アイドルジョッキー”というフレーズの甘い響きとはかけ離れた場所で、彼女は戦っている。騎手として技術を磨こうという信念が、痛いほど伝わってくる。だからこそ、多くの乗り馬が集まるのだろう。師匠の根本調教師は言う。
「菜七子は後ろを向かない。常に前向きです。しっかり反省はするけど、終わったことに引きずられない。まだ海のものか山のものかわからないときからメディアに取り上げられてきたプレッシャーは、本当に大きいと思う。すごく苦しいはずです。でも、彼女はそこを乗り越えられる強さを持っている。一生懸命、地道にやっています」
ひたむきな姿勢と、経験を積むことで増えていく引き出しが、彼女の行く道を明るく照らしている。
(Number964号『藤田菜七子「一鞍一鞍GIへ」』より)