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藤田菜七子が語っていたGIの願望。
「いつか乗せていただけるように」 

text by

井上オークス

井上オークスOaks Inoue

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photograph byShin Suzuki

posted2019/02/04 10:30

藤田菜七子が語っていたGIの願望。「いつか乗せていただけるように」<Number Web> photograph by Shin Suzuki

2018年は28勝を挙げるなど、着実に歩んでいる藤田奈七子。フェブラリーSで初のGI騎乗を果たす。

藤田が乗ると不思議と伸びる。

「たくさんのレースに乗せていただくなかで、慣れてきた部分、わかるようになってきた部分はあると思います」

 だがそうはいっても、根本調教師のみならず、多くの競馬関係者を「ありえない」「浦和であんな追い込みは初めて見た」と驚かせた直線の伸びは、説明がつかない。実は「藤田菜七子が乗ると、不思議と馬が伸びる」という現象は、しばしば起きているサプライズだ。

 イーストスパークルは工藤伸輔厩舎(南関東・浦和)の所属馬。藤田がデビュー戦(2016年3月3日、川崎競馬場)で騎乗したコンバットダイヤも、同じ厩舎だった。

「工藤先生は私が南関東へ乗りに行く度に乗せてくださって、本当にお世話になっています。『工藤厩舎の馬で勝つこと』は、私の目標のひとつでした。だから浦和での勝ちは大きな1勝でしたし、すごく嬉しかったです」

 デビュー3年目の2018年、3度騎乗して2勝をあげているのが、マルーンエンブレム(JRA美浦・小島茂之厩舎)という3歳牝馬だ。この馬はどんな馬なのかと訊ねると、つぶらな瞳が輝いた。

「380kgぐらいの小さい馬なんですけど、とても気持ちが強いので、なにかあっても動じません。バネがあるし、すごく賢い馬です」

状況に応じて呼吸を合わせる。

 初めて手綱を取ったのは、2018年4月に福島競馬場で行われた3歳未勝利戦。3コーナー過ぎからスーッとポジションを上げ、直線で豪快に脚を伸ばして1着。2度目の騎乗は6月の福島で、2着に入った。

「2回目のレースでは、馬自身が3コーナーでハミを取って、進んで行ってくれたんです。『1回目にやったことをしっかり覚えているんだな、なんて賢いんだろう』と驚きました」

 3度目の騎乗は、8月の新潟競馬場。新潟は福島と違って直線が長く、仕掛けどころも違ってくる。ところが、過去2回のレースの記憶が残っているのか、マルーンエンブレムは3コーナーで自ら前の馬をとらえに行こうとしたという。藤田はそこをなんとかなだめて、4コーナーまで我慢をさせた。その対応が奏功し、勝利をつかんだ。

 状況に応じて、馬との呼吸を合わせていく。個々の特徴を感じて、騎乗に生かす。「馬を気持ちよく走らせてあげること」を念頭に置いた馬本位の騎乗スタイルは、1000鞍以上のレース経験を経て、着々と進歩している。

「マルーンエンブレムには11月に、東京競馬場で騎乗させていただく予定です。今からとても楽しみにしています」

【次ページ】 海外の女性騎手から学ぶこと。

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#藤田菜七子

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