F1ピットストップBACK NUMBER
“セナ足伝説”の現代版か?
ハミルトン、1.4秒差勝利の超絶テク。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byPaul-Henri Cahier/Getty Images
posted2018/11/19 08:00
1991年ブラジルGPでのマクラーレン・ホンダMP4/6に乗るアイルトン・セナ。若いホンダのエンジニアの姿も。
「セナ足」の伝説は本当だった。
現在のF1マシンはステアリングの裏にあるパドルを指で操作してシフトチェンジするが、当時はコクピットの右手側にあるシフトレバーを前後に操作してシフトチェンジしていたため、ギアを変えるときは一旦、ステアリングから手を離さなければならなかった。セナの伝説の走りは、決して誇張ではなく、本当だったのである。
それが事実だとすれば、そのような走りはセナ以外にも可能だったのか――。
別のホンダのエンジニアに尋ねると、「それはだれでもできるほど簡単なことではない」と語った。「なぜなら、セナはシフトチェンジできない代わりに、クラッチを切ったり、繋いだりという作業を頻繁に繰り返していたと思われるからです」
ハミルトンが新しい伝説を。
高速で走っているときは6速での走行は問題ないが、高速走行の後に低速コーナーに進入するときはどうしてもブレーキを踏んで減速するため、ギアを落とさないとスムーズにコーナーを立ち上がれないし、最悪の場合、エンストしてしまう。
そこでセナは減速した直後にクラッチを切って、一旦落ちたエンジンの回転数をその状況に合わせた回転数に戻してからクラッチをつなげていたのではないかと、ホンダのエンジニアは説明した。
説明を聞いているだけでも気が遠くなるようなドライビング。
それをセナは実行していただけでなく、ほとんどほかのドライバーと変わらないペースで走り、レースが終わるまでだれにも気が付かれなかった。
それは「セナ足」と呼ばれた繊細なアクセルワークを得意としていたセナにしかできなかった神走りだったのかもしれない。
そのセナを敬愛するルイス・ハミルトンが、今年のブラジルGPで見せた走りも、セナに負けない奇跡のドライビングだった。