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39歳ライコネン、F1勝利の大偉業。
激動を生き抜いたクールな適応力。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2018/10/31 07:30
「アイスマン」の愛称で知られるライコネンも、113戦ぶりの勝利に思わず歓喜のガッツポーズだった。
4つの異なるエンジンで優勝。
デビューした'01年は自然吸気の3リッターV10で、チャンピオンを獲得した07年は2.4リッターV8だった。ラリーへ転身する直前の'09年の勝利はF1が初めてハイブリッド化した年で、ライコネンのベルギーGPでの勝利はKERS(運動エネルギー回生システム)搭載車としての貴重な勝利だった。
そして今回1.6リッターV6ターボのパワーユニットでの勝利によって、ライコネンは4つの異なるエンジンで優勝した最初のドライバーとなった。
ライコネンと同じ年にデビューしたフェルナンド・アロンソは現在のパワーユニットでの勝利がなく、今年タイトル争いを繰り広げたルイス・ハミルトンとセバスチャン・ベッテルはV10を経験していない。
それ以外にも、予選方式が60分1本勝負から1アタックになり、Q1~Q3制度になったり、レース中の給油が禁止されたり、タイヤが溝付きからスリックになったり、DRS(リアウイング可変システム)が導入されたり、ライコネンがいた十数年間で、F1のレギュレーションは目まぐるしく変わってきたが、そのいずれの変化にもライコネンは賢く適応してきた。
少年時代のカートでの逸話。
その適応能力の高さは、ライコネンが3つの異なるエンジンメーカーとタイヤメーカーで優勝していることでもわかる。現役で最多となるタイトルと勝利を挙げてきたハミルトンの栄光は、すべてメルセデス・エンジンでのものだ。
マネージャーのスティーブ・ロバートソンは、ライコネンの類いまれなる才能のひとつは「どんな状況であろうとも、絶対にあきらめずに、常に全力を尽くすこと」だと語る。ロバートソンには、いまも忘れられない記憶がある。ライコネンが少年時代に参加した'98年のカートのヨーロッパ選手権のことだった。
アロンソらヨーロッパ各国の強豪たちが集った大会で、ライコネンはレース序盤に他車と接触して横転してしまう。だれもがリタイアすると思った次の瞬間、横転したカートから降りたライコネンはひっくり返ったカートを元に戻して、レースを続行したのである。