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FC東京時代から何も変わっていない
「ドリブルおばけ」中島翔哉の本質。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/10/20 10:00
中島翔哉が仕掛ければ何かが起こる。その期待感はサッカーファンにとって共通項だ。
「サッカーを100%楽しむ」
かつては「将来バロンドールを取る」と豪語していたことも、サッカーファンの中ではよく知られている。さまざまな経験を重ねたからか、いまはあまり威勢のいい発言は聞かれなくなったが、その強気な姿勢が変わっていないところは、彼のプレースタイルに確認することができる。
その代わりに、ここ数年は常にこんな言葉を強調する。これはウルグアイ戦直後のコメントである。
「自分はとにかく楽しくプレーすることをとても大事にしている。強いチームと戦っても複雑に考えない。サッカーなので、楽しんでやっていこうと。相手とか舞台とか関係なく、サッカーは楽しむもの。常に100%楽しめるように」
とにかく“楽しむ”。何度も何度も中島が口にするこの言葉。最近では、他の選手からはあまり聞かれない。勝負の世界に生きる選手たちは、勝敗や競争にさらされるだけに、このフレーズは口にしづらい。そんな集団の中にいて、中島はいつも堂々“楽しむ”を連呼する、稀有な存在なのだ。
2年前まではJ3で堂安と対決。
思い返せば、たった2年前まで彼はFC東京U-23の一員として、J3リーグを戦っていた。当時はJ1を戦うトップチームにメンバー入りすらできていなかった。ただ、彼のプレーレベルが周囲よりも劣っていたかと言えば、そうは見えなかった。
練習でも、誰よりもドリブルでしかけ、誰よりも難しいシュートを決めた。ただ、チームのサッカースタイルにはフィットしていなかったようには思う。今考えても、中島にとって日本は、とても窮屈な環境だったようだ。
当時の取材ノートを見返すと、G大阪U-23との試合の記録が出てきた。ちなみに結果は1-1のドロー。G大阪U-23でゴールを挙げたのは、堂安律。彼もまた、一昨年はまだJ3の選手だったのだ。あらためて、プロの世界には夢がある。
当時の中島のコメントが残っている。
「今日もまずは楽しくプレーすることを心がけました」
J3でも、欧州でも、代表でも。やはり彼のプレーもマインドも、いい意味で変わっていないと確信した。
このまま突き進み、どこまで高みにたどり着けるか。サッカーに純心な青年のストーリーが、ここから陽の目を浴びようとしている。