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新しい地図×土田和歌子、道下美里。
「“頑張って偉い”を超えて」
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/10/04 11:30
「新しい地図」が話を聞いた土田和歌子選手(左)と道下美里選手。パラ競技には知らない世界が山ほどある。
風を切って走る感覚が最高で。
香取 道下選手は僕と同い年なんですよね。
道下 はい、41歳です。当初は中距離の選手だったのですが、「長い距離を走ってみたら」と助言を受け、26歳でマラソンを始めました。風を切って走る感覚が気持ちよくて夢中になり、リオでパラリンピックに初出場、銀メダルをとることができました。
香取 視力はどれくらいなのですか?
道下 私は膠様滴状角膜ジストロフィーという病気で、何らかの原因で角膜に濁りが生じるものです。今だと隣にいらっしゃる稲垣さんと草なぎさんのことはぼんやりと黒い影のように見えているのですが、3mほど離れている香取さんはほとんど見えない。せっかくなのに、残念です(笑)。
稲垣 その視覚でフルマラソン、信じられない。僕は以前、テレビ番組の企画で伊平屋ムーンライトマラソンに挑戦し、42.195km走ったことがあります。15kmくらいまでは気持ちよく走れていたのですが、20km過ぎからが本当にきつかった。
道下 どれくらいのタイムでしたか?
稲垣 途中歩いたので5時間以上かかりました。道下さんの2時間56分には遠く及びませんが、走り切った達成感はとても大きくて、その時に履いていたスニーカーは未だに捨てられないんですよ。断捨離するときにいつも「どうしようかな」って迷うんですが、やっぱり残してしまう。
草なぎ わかるわかる! 僕も27時間テレビで100km走りましたが、そのスニーカーは捨てられないですもん。底が磨り減っていたりするのが思い出深いんだよね。
香取 2人のそんな話、初めて聞いた(笑)。
レース中の「頑張れ」は禁止。
草なぎ 練習でも常に伴走者が一緒ですか?
道下 はい。リオパラまでに練習や試合で伴走してくれた「チーム道下」は100人を超えていました。今は今日同席してくれている河口恵さんを含めて、12人のスタッフと練習していて、1日に60kmほど走りこむこともあります。
草なぎ 絶対ぼくには無理だ。河口さん、伴走者はどんな指示を出すんですか?
河口 いわゆる「視覚情報」だけを伝えます。例えば、カーブの入口で「右90度」、出口で「カーブ終わり」。「終わり」は必要ないと思う人もいるかもしれませんが、選手はどこまで曲がって走ったらいいのかわからずに不安になる。目の見えない選手の気持ちを想像して指示をしますが、私はまだ未熟なところがあって。他には給水の補助やタイムの管理も仕事ですね。
道下 伴走者は10秒に1回は指示を出してくれますが、「頑張って」「勝負所!」といった掛け声はルール違反です。
香取 えっ、そうなの?
道下 ですので、視覚情報にあたらないレースの戦略などは前もって何パターンか準備しておくんです。