サムライブルーの原材料BACK NUMBER
大島僚太は局面より90分で考える。
「試合終了の段階で勝っていれば」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byWataru Sato
posted2018/09/21 12:45
攻守両面で試合ごとに存在感を増す大島僚太。その深遠なプレーぶりは見逃せない。
後方で与えるチームへの安心感。
後方待機の、効果的なポジショニング。
1つ、好例を出したい。8月25日、ホームでのベガルタ仙台戦だった。
後半21分、1-0でリードする川崎はボールを運んでハーフウェーラインを越え、右サイドから中へのパスをカットされてカウンターを受けた場面があった。既に大島はバランスを見て右サイド後方のスペースに大きく下がっていた。
ここで勢いよく持ち上がる西村拓真と右サイドにニラミを利かせることに成功。攻撃に転ずるとペナルティーエリア前でパスをもらい、左サイドの小林悠にパスを出してそのリターンを前に出て受け、今度は逆サイドの裏に長いパスを送って一瞬にしてチャンスを捻出している。
リスクマネジメントとチャンスメイク。この後方におけるどっしり感がチームに落ち着き、安心感をもたらしていることは間違いない。
これには2列目にポジションを置く中村憲剛との関係性も、理由にある。前半戦は中村が下りてきてビルドアップに加わる光景はよくあったが、後半戦はめっきり減った印象を受ける。そこは大島、守田英正をはじめ後ろへの信頼と言えるのかもしれない。
前の選手をしっかり後方支援できている手応えがあるのではないですか?
そう問うと、大島は逆に前方支援を口にする。
「憲剛さん、(小林)悠さんたち前の人が守備で相手のコースを限定してくれているので、後ろとしては凄く楽になっているというのもありました」
自分がどうしたいか、ではなく。
8月11日のアウェー、大島は清水エスパルス戦ではゴール前に入っていって、今季初ゴールを挙げている。ただ「あのシーンは理想ではないんです」と言い切る。
「確かに、点を取れたことはうれしいです。でも僕がやらなくても、きっと(このチームは)誰かがその役割をやってくれる。むしろチームのオプションになるのは、ミドルシュートできちんと枠に入れていくとかそういうところだと思うんです」
あくまでチームが勝つために。
自分がどうしたいか、ではなく、チームがどうしたいか。チームがどうやって勝つのか。そのためにどうかかわっていけばいいか。ボランチの位置から積極的に前に出ていく役割を否定しているのではなく、後方支援の仕事を突き詰めていくことが、うまくチームが機能するという確信が大島にはある。